Bambino stranza

※セオを中心とした子世代部屋※

⬛︎Sucola Media(中学校/11-14)


  • 男の話

     全身の力を抜く。しかし一本だけ頭頂部から背骨を通るその一本の筋だけは折らないようにまっすぐと力を込めて、姿勢を正す。瞳を閉じて耳を澄ませ、肌で風を感じる。遠くから流れてくる音と近くでそよぐ波に意識を散らしながら、ラジュは静かに、どこまでも…

  • Buon Compleanno!

     自分が産まれた日を喜ばしいと思ったことは一度もない。産まれてきてよかった、だとか、産んでくれて良かったと感謝したこともなかった。ただ今生きているのは自分がそうありたいと望んだだけの結果であり、それについて感謝も何もない。 ドン・バルディは…

  • それは簡単なこと

     少年は馬鹿だったが、愚かではなかった。 少年は馬鹿だったが、頭が足りないわけではなかった。 少年は馬鹿だったが、残忍ではなかった。 少年は馬鹿だったが、自分のことしか考えないわけではなかった。 少年は馬鹿だったが、  お兄ちゃん…

  • 思春期だから―誰が来たのか確認しましょう―

     一人の少年の部屋。もう少年と呼ぶには随分と大きくなっている。一つのベッドと、一つの机、それからテレビに本棚。本棚には幼児用の本から辞書まで様々なものが分類別に整理されて入っていた。 ジーモはへぇ、と嬉しそうに声を出して、あれと外に開かれた…

  • La bugiarda

    「おーい、セオ!先生が呼んでる!」 金色の髪でずんぐりむっくりな少年が教室の入り口で手を振っている。中学生にしては随分と高い背は、もう少しで入口の上部にくっつきそうな勢いである。 セオはすっくと立ち上がって、教師に呼ばれたとその場を離れた。…

  • La madre mia

    1 アルコール中毒の父親。薬物中毒の母親。どうして生きてこれたのか、それは自分が一番聞きたい。あの劣悪極まる環境で自分の命が持っていたのは奇跡に近い。尤も最終的には、捨てられた。ゴミのように。 雪の中吹雪が皮膚を突き刺して、ああもう死ぬのか…

  • Como e Lavinia

    1 今日も死体の解体をする。跡形も残さず、まるで牛を捌くかのごとく包丁を滑らせ肉と骨を断絶する。筋肉の部位、神経の位置、臓器の在り方。それら全ては、死体を捌いている人間の頭の中に入っていた。どの神経を切断すればどの筋肉が動かなくなるのか、ど…

 

⬛︎Liceo(高等学校/14-19)


  • 脱童貞の話

     ず、と林檎の写真が貼られた四角い、長方形の、直方体の、中に内容物が液体が入っているものがぺほんとへこんだ。その頭頂部には細く白い筒状の、一般的にストローと呼ばれるものが突き刺されている。そしてセオは、それに口をつけていた。その手元には薄い…

  • Il scudo

    1 これでも自分は大きいほうだと自負している己の隣に立つ、さらに体格の良い青年。 セオはジーモの方へと目を向けることもなく、静かにその顎と唇、それから肺他、声を発するための器官を動かして声を紡ぎ出した。その声がジーモの耳へと届いても、ジーモ…

  • トラウマに追いうちをかける

     もう生きていけない、とセオは枕に突っ伏してう、うと半泣きで呻いていた。 勿論あの後トイレに(抜くために)直行したけれど、心配したラヴィーナがトイレの前にいられたのは何の拷問かと思った。マンマには「男の子ですからそう言うこともありますよ」と…

  • 思春期だから―入室時にはノックしましょう―

     掛け声の合図とともに、二人の繋がれた手は肘を視点として両側、相手の腕を押し倒そうと力を込めた。ぐぐ、と一瞬緊迫の空気が作られたが、五秒も経てば、大きながっしりとした手首の方の腕が、そちらと比べるとまだ細いが、それでもかなりしっかりとした腕…

  • falso rapimento

     好きな人に振り向いて欲しいと言うのは、決して我儘などではないと思う。こっちを向いてと、興味を示してと、そう思うことの一体どこかいけないことなのか。 愛している愛している。愛しているから、振り向いて欲しい。彼がこちらを向かないのを知っていて…

  • La mia amica

    ※R18(pass:ok)

  • Rivali in amore

     セオ、と掛けられた声に、セオは大きな体をのっそりと動かして声のした方向へと顔を向けた。しかし視線の先には誰もいない。なんだと思いつつ眉間に軽くしわを寄せた時に、下からひょいと手が伸びてきた。そしてああ、とセオは下へと視線をずらす。高すぎる…

  • Biancaneve e i sette nani

    同性愛要素有り

  • 俺の天使

    同性愛要素有り

  • 先輩からのお言葉

     乗せた拳が頬骨を砕いた音が、密閉された室内に響く。尤も通風孔は開かれたままなので、完全に密閉されたとは言えない。室内の空気は、骨を折るという行為によって生じた鈍く重たい音を、同じ室内にいたもう一人の男と、殴られている男の耳にしっかりと届け…

 

⬛︎子世代VARIA(19-)


  • A prima vista

     Io innomoro a prima vista. そう表現するのが最も正しい。何気なく違う散歩コースを選んだのが、幸いだったのだろう。運命を信じるほどには、自分は信心深くない。ただその一つの選択と偶然が重なって、出会った。出会った、と…

  • La preoccpazione

    「ラヴィーナ?」 びくっとその小さな背中が大きく震える。いつも布をかけているその顔には、今日は奥が外側からは一切見えない特殊仕様のサングラスをかけており、服装もどこか可愛らしさを感じさせるものである。肩に掛けている鞄の肩紐にラヴィーナのその…

  • だから、

     だから、とイルマは軽く息を吐いた。その隣では黒髪に銀朱の瞳をその身に宿した男が、紙コップに入ったコーヒーを傾けて飲んでいる。睡眠不足なのかどうなのかは定かではないが、その目の下にはうっすらと隈ができていた。あふ、とカフェインを摂取した後に…

  • 死に臨む

     銀朱色の瞳をもった男を恐ろしいと思ったことは一度もなかった。 月に一二度は顔を合わせる機会があったし、彼はその度に林檎かアップルパイか、林檎ジュースか、兎も角林檎関連の何かをもぐもぐと口にして、気さくに挨拶代わりの声を掛けてくれた。時には…

  • 残滓

    同性愛要素有り

  • 守護者

     VARIAの紋章が刻まれた厳しい箱に納められているのは六つの指輪。一つだけ箱に納められてはいないのだが、それは自分の指に既に嵌められていた。父であるXANXUSから受け継いだその指輪は思いのほかしっくりと指に落ち着いており、まるで随分と昔…

  • Di sangue

     幸せである、とセオは思った。 目の前にある笑顔。溢れる花の香り。柔らかな声、口調。ドンに言わせれば、客相手に乱暴な言葉づかいをする人間はいないのだそうだが、そんなことは些細な問題である。ようは彼女の声が聞ければ、セオはそれだけでもう十分に…

  • Плотоядное животное

     ヴォトカの入った瓶を逆さまにする。ぐびりと液体が喉を通り、体を内側から熱くさせる。極寒の地のロシアでは、ヴォトカを飲んで丁度良いくらいの暑さだったが、ここイタリアでは気温が高いために全く暑いくらいである。あの刺すような冷たさが懐かしい、と…

  • Поедйндк

     ぶは、とラヴィーナは飲みかけていた茶を噴きだした。げほげほと咳込みながら、目の前に居る男に口元を盛大に引きつらせる。爽やかな笑顔で「彼」はそこに座っていた。「Добрый день(こんにちは)」「…」 ラヴィーナが斜めに噴きだした紅茶は…

  • Небрежность

     いよぉおおし!とセオはカレンダーを見てガッツポーズを決めた。その隣では頭二つ分は低いラヴィーナもほっと胸をなでおろしている。兄妹揃っての不可解極まりない、ともすれば変わり者扱いされそうな二人の行動を背中から眺めつつ、どうした、と火のついて…

  • Нет розы без шипов

    1 きゅぽんと口からヴォトカの瓶を外す。男は空になった小瓶を机の上に放り投げ、机に着地した瓶はくるからと回転しながら、その中央に置かれているグラスに衝突して止まった。からん、とカーテンの閉められている部屋に乾いた音が響く。男の手は一二度宙を…

  • Молчание знак согласия

     こつん、と白さが際立った指先が机を軽くノックする。重さを持たないその音に、ラヴィーナは本から目を離して顔を上げた。目をしっかりと覆っている布がそれに合わせ、ほんの少しだけ靡く。が、その奥に潜ませてある彼女を生物兵器たらしめている瞳が周囲に…

  • 愛の距離

     君は、と掛けられた声にセオはそちらに視線を向けた。左にはジーモ、右にはドンと古くからの友が座っている。各々の手には食べ物、もしくは飲み物が持たれていた。 場所はジーモの部屋のベランダ。時刻は昼時。天気は快晴。ランチには全く素敵な三つの要素…

  • 忌々しい

    同性愛要素有り

  • услода жена

     気泡が液体に浮く。 瓶の中に詰められている飲み物は気泡の入った分だけ、その内容量を減らした。色のついたボトルの底を天井に向けていた状態から、膝の位置に下げる。瓶のヴォトカは半分程度、男の胃の中に消えていた。一人はソファに深く腰掛け、一人は…

  • Чужая душа-потёмки

     長く白く続く廻廊の先から、怯えにも似た引き攣り上がった悲鳴に近い声が空気を震わせた。あまりにも小さなそれではあったけれども、大層耳の良い男にとって、聞き取るには十分の声量であった。 ひょうたん型の、ウエストはきゅっと引き絞られ、上と下は滑…

  • лавина

    1 指先で一枚の紙を折り続ける。 一つ折り二つ折り、また三つに折り四つに折る。掌の中で見る間に小さくなっていくそれは、とうとう厚みだけを増やして折ることができなくなった。端と端を丁寧に折り合わされたものは、乱雑に折られたそれよりもずっと小さ…

  • Morte manterno

    1「どうにも、ならねぇか」「ドウニモナリマセン」 頭髪を一切持たず、その代わりに刺青をその頭に彫り込んだ、色の強い肌の男はXANXUSの呟きに大変、冷静沈着に、覆ることの無い事実だけを述べた。 XANXUSは深く椅子に腰掛け、その体重を預け…

  • 犬猿の仲

    同性愛要素有り

  • Ты шутишь?

     その姿形は常に布越しである。 布越しに見ない対象は常に肉片へと変じた。記憶に残る布越しではなく視界に入れたものと言えば、片手の指で足りるほどに少なかった。 ラヴィーナは顔に掛けられている布を指先で軽く引っ張る。 口こそ出されているが、鼻ま…

 

⬛︎+Bambino(28-)


  • 殺戮者

    1 コレ映ってんのか、と目の前に置かれた機械の前で数度画面が揺れた。髭を蓄えた男がそこには映っている。にたにたと勝ち誇った、まるで勝者のような笑みを浮かべていた。セオはそれを机の上に置かれた機械の向こうで眺めていた。その顔には、感情を伴った…

  • Corvo del malaugurio

    1 鐘の音が三回。それが幾度も幾度も鳴り響く。良く晴れ上がった、全く憎々しい程に青い空にそれは溶け込むようにして響いた。教会から棺が運び出され、それに続くようにして人が参列する。黒、と言うわけではなく、その服装は非常にカジュアルであり、各々…

  • La perdita

    1 携帯電話をポケットに押し込む。浅い色をした瞳を瞼の奥に隠した。 灰色の髪の男は、その体勢から微動だにしない男をじぃと二つの眼で見つめ、そして、行くのと問うた。問われた男は止めていた時間を動かして、その瞳を瞼から覗かせる。そして、答えた。…

  • 椅子の色

     なんて面倒臭いんだろう、とセオはその会話を右から左に聞き流しながら椅子に座っていた。きっちりと固められた黒の服装はいっそ億劫にすら思える。黒、と言うよりも漆黒のスーツは漂わせた表情をより陰鬱に見せていた。珍しく上まで締められたネクタイは獰…

  • La mia terra

     腕が重い。体が重い。瞼が重い。脚が重い。全身が、重い。 鬱屈した精神構造の中で、セオは只一人転がっていた。動くのが億劫で堪らなく面倒臭いとそう感じていた。別にそれは重ねた年の所為などではなく、心の問題である。 三十二、口にすればするほど、…

  • 過去に追われる

     世界は驚くほど不平等で、そして驚くほど平等である。 足元で神に祈りを捧げ許しを乞う男を見下ろす。 圧迫的な個室。手を思いっきり伸ばし、少し背伸びすれば天井には手が届き、換気のための窓はなく、鉄製の扉が一枚、その部屋と外界を分けているだけで…