七武海剥奪

⬛︎称号剥奪-頂上決戦


  • You need him.

     金品を没収されると言うのは、囚人として、まぁ至極当然と言えば当然のことである。嵌めていた指輪が取り除かれる様をどこか客観的思考で眺めながら、クロコダイルは静かにそんな事を考えた。ほんの少しだけ己の熱を持った指輪が親指、人差し指、中指、小指…

  • 邂逅

    1「わっしも」 そりゃあ驚きましたよォ。老いをその年の数だけ体に刻んだ男は、泡の一切入っていない氷が溶ける音を聞きながら、そう隣の髪の毛が大層膨らんでいる海軍本部における唯一の上司に向けてそう告げた。年配の人間は指を折ればそれなりにいるが、…

  • 正義の名の下に

    1 黒と白の囚人服。それは檻のように縦ではなく、横にラインが流されている。だが、檻の中に居る男はその服装を全くしていなかった。それどころか、彼の服は船長そのものの服装で、優雅に葉巻をふかしている。脇にはB.Wの印が入った海賊帽とマントが丁寧…

  • 置き去り

    1 重たい扉が閉ざされる。 ギックは狭い小部屋に一つずつある椅子と机、それからベッドを眺め見て、目尻に一つ二つ皺を増やした。どすんと音を立てて回した椅子に座る。謹慎処分など、全く持って冗談ではなかった。何とも馬鹿馬鹿しい処遇である。あの人が…

  • 疲れ果て

    1 大きな大きな、大柄な男をは死んだような目で見上げた。生きる意志も意図も望みすらも失った、そのくたびれた瞳をインペルダウン署長マゼランは自分よりもはるかに小さな女を見下ろした。そして渡された書類を眺める。 元海軍本部准将絶刀の。元王下七武…

  • 捨て置かれた

    1 一室。窓からの採光が部屋に暖かい。その部屋の木製の机を前に座り、革張りの椅子の背凭れに全体重を預けた白猟の二つ名を持つ男は、いつも通り葉巻を二本咥え、机の前に立つ一名とその後ろに立つ二名と顔を合わせていた。 あの女がインペルダウンに投獄…

  • 預けもの

     酷い咳が連続して個室に響く。 簡易ベッドに横たわる女の額には冷たく絞られて畳まれた布が置かれている。しかしその冷たい布も、女の額の熱を吸い込んであっという間に温くなる。顔色は酷く悪く、青色を通り越して紙のように白くなりかけていた。吸い込ん…

  • どうも、お久しぶりです

    1 裸足が冷たい石を叩く音。 ここ、LEVEL6に来る囚人はとても少ない。そうそう沢山居ても困りものだが。ひたりひたりと囚人の落ちた足音と、看守とマゼランの重たい足音が同時に響いて来る。男の囚人に周囲の反応は薄いものかと思われたが、それはの…

  • 指先の触れる

     いつからだろうか。 いつから、隣にこの女が居ることが普通となったのだろうか。 いつからなどともう既に覚えていないクロコダイルは、海楼石で作られた手枷の重さを腕にずっしりと感じながら、そんな事を頭に思い浮かべた。実質、それを考える他に取り立…

  • 遺志

    1 私も連れて行け、と女の声が音の反響する監獄に暗く静かに響く。 ルフィは目の前に居たジンベエから目を反らし、その対面に坐し、暗がりに潜む囚人へと目を向けた。大きな瞳に人一人の姿が映し出される。男だろうか女だろうか、体格からは判断しづらいそ…

  • The last word

    1「海は良いな、綺麗だ」 扉に乗った場所から見えた光景に、はそう呟いた。クロコダイルは一歩前に出たために見えるの背中へと視線をずらす。この女は一体何を見ているのだろう、とクロコダイルは思う。海を見て綺麗だと良いと言葉を紡ぐのは、まるで口癖の…

  • Jaws of death

     体が落下していく。落ちても死なない術は身につけているので焦る必要はない。ふと顔を上げれば、処刑台に座す男の姿が見えた。共に落ちて行く黒いコートへと顔を向け、は葉巻をのんびりと燻らせている男に笑いかけた。「じゃあな」「…」「お前に会えて、良…

  • 本当は

    1 クロコダイルの叫び声が白ひげの耳を震わせる。二人の間の確執をは知らない。知る必要も、また、ない。 スクアードは海軍に騙された。ああ所詮事実などそんなものだ。はパシフィスタの頭を一突きして横に払いながら、その言葉を胸中で繰り返す。戦略だ軍…

  • 生きたい

    1 エースが死んだ。 ビブルカードが焼け落ちたのを、は見た。エースが死んだと言うのに、戦場は未だに揺れ動いている。混戦の中で人々は殺し合う。止まらない世界の中で、は呆然と佇んでいた。白ひげ海賊団が、ジンベエが、クロコダイルが、麦わらのルフィ…

 

⬛︎監禁生活


  • 籠の鳥

     意識が浮上する。ぼやけた視界に白衣を纏った男が映し出される。それと同時にやはり同じく鮮明ではない音で、国王様、と不愉快極まりない名前が呼ばれた。そして、次第にはっきりとしていくボケた視界を目障りな色が覆い尽した。思わず顔を顰める。ここ数日…

  • 夜鶴

     フフ、と愉しげな、大層愉快そうな笑い声が空気に混じる。つるはその笑い声を口から発し、上機嫌で椅子の背に腰かけている男を見上げた。大きな口を上げてひょいひょいと茶菓子をその中に放り込むようにして食べている。綺麗に食べていないのは意図的かどう…

  • Why why why?

     腕を拘束している女を下に組み敷く。正しくは床に押し付けた。背中に膝を乗せて体重を掛け、腕を後ろにひねり上げて逃げられないようにする。小さな舌打ちが体の下から鳴った。ひねりあげた腕を戒めていたはずの縄は綺麗に解かれてベッドの上に落ちていた。…

  • その目

    ※R18(pass:ok)

  • 水葬

     赤髪の三本傷が刻まれた髑髏が水平線の向こうへと消える。 凪いだ海に浮かぶ雲は、青く澄み渡った空をゆっくりと泳いでいる。空を覆い隠してしまう程に大きく、逞しく、立派で、雄々しく、敬愛した男はもういない。今はただ、作られた墓に掛けられた外套が…

  • お前とおれの

     アンタにとって、と掛けられた声にクロコダイルは海風に当たっていた背中から、隣で体を鍛えていたダズへと視線を向けた。空は快晴、雲ひとつなく、雨の匂いはどこか遠くへ流れ、今は唯潮風の匂いばかりが鼻を擽る。あの馬鹿の好きな香りだ、とクロコダイル…

  • 翼を捥ぐ

     がちん、と拘束具が外される。重たい音が空気を完全に支配した。回された鍵がゆっくりと鍵穴から抜かれ、上の拘束具を片手で外す。もう片方の腕はその手でぎちぎちと女の自由を奪っていた。不愉快気に女の眉間に皺が寄せられている。そんなに怖ェ顔すンなよ…

  • I can’t understand.

     飯だけは大人しく食うんだな、と雛に餌を与えるようにスプーンをの口へと運びながらドフラミンゴはそうぼやいた。スプーンに乗せられた飯を上下の顎で挟み唇で金属をなぞりながら、後方に頭を引くことで口の中に食事を運ぶ。下顎を動かし臼歯で飯を磨り潰し…

  • 渇望

    ※R18(pass:ok)

  • 彼女について

     寂しそうな背中がポツリ。目を見せない深みのあるサングラスに映し出された。ドンキホーテ・ドフラミンゴは海軍帽子を坊主頭に被り、正義の二文字を背中に流している男に、口に笑いを含めつつ、歩み寄った。爪先の反り上がった靴が、男の大きさに反して軽い…

  • 甘えたい、それだけ。

     男はベッドに倒れ込んだ。 大きな体がもっすりとベッドシーツを宙へと舞わせながら、沈み込む。沈没。そのままぴくりとも動かなくなった体に手足に枷を嵌められたままだったは怪訝そうに眉根を寄せた。ぐったりと倒れ込んだ体は普段のように不愉快な笑みを…

  • Rapunzel

    ※R18(pass:ok)

  • Go to the sea

     嫌な感じがする。 ドフラミンゴは軍艦の上でぼんやりと凪いだ海を眺めながら、小さくなって、既にもう点のようにしか見えない島を眺めた。それも水平線の向こうへと消え去ろうとしている。なんだろうか、とドフラミンゴは思う。そして、唐突に側にいた海兵…

  • 君に遺す

    1 空に浮かぶ白い雲の保護色で一羽の猛禽類は広すぎる程に広すぎる空で風を拾いながら、なめらかなラインで翼で一度空気を押し出し前進する。空における捕食者は存在しないため、何ものにも怯えることなく空を飛ぶ姿は一つだけ足の速い雲に見える。 ヤッカ…

  • The blue bird

     帆船であるこの船のマストは、追い風に乗せて大きくその帆を膨らませた。ばつん!と小気味よい音がマストを叩き、青い空に響かせる。本日青天。雲一つな気素晴らしき空がそこには広がっていた。とはいえども、グランドラインの気候は変わりやすく、この天候…

  • 手に馴染む

     女は退屈そうに、甲板の上でギプスを鳴らした。左右重みの違う足、その片方には白い物体ががっちりと付いており、重たくて仕様がない。 マルコぉ、とは溜息交じりに房を模した髪を持つ、なで肩の男に声を掛けた。だが、取りつく島もなく、マルコはふるりと…

  • さよならではなく

     船は穏やかな波に揺られていた。帆を畳み、錨を海中に垂らしているので、ゆるゆるとしか船は前に進まない。波のたゆたい一つをその体に受けながら、船はゆっくりと進む。春島、もしくは秋島が近いのか、気温湿度共に肌に心地良く、気候は安定していた。 は…

  • 海賊だからな

    1 と、男は言った。 部屋を埋め尽くす程に大きな鳥が一羽、机の前に在るソファに腰かけていた。座るべき場所にはその大きな足が乗り、背を預ける部分に尻を乗せる。この子はまともに椅子に座ることができないのだろうかと疑問に思いつつ、もう一羽の鳥は開…

  • 心配性の

    1 うん、と一つ大きな伸びをして、人のベッドにその体を勢いよく放り投げる。ぼすんと倒れたその体は大の字に広げられている。圧し掛かってやろうかと嫌らがらせ心が多少なりとも芽生えかけたが、久々の再会に水を差すこともあるまいとクロコダイルはベッド…

 

⬛︎海賊時代


  • そんなことはないのだろうけれども

     湯煙の先で、傷痕の上を水滴が走り落ちる。透明な湯の中に浸された体は、僅かながらも凹凸が存在し、体を分断するかのように走っている古傷からは気泡が一つ二つを零れて水面に空気を弾けさせた。 狭い、とは言わないまでも、決して広くはない湯船の中で四…

  • Happy Birthday

     はっぴーばーすでーとぅーゆー。 灯された蝋燭の火を吹き消したことがあったろうか。クロコダイルは咥えた葉巻の煙をくゆらせながら、深く体をソファに埋める。きっちりと隙間なく着込んだシャツの袖、カフスボタンを右手で触れ、その精巧な細工に目を細め…

  • 次こそ

     頬を伝った汗を手の甲で拭う。ゾロは肺胞内部の二酸化炭素全てを吐き出すかのように、大きく深く息を吐いた。そして瓦礫の上に悠然と座って、さも楽しげな笑みを口に乗せている女へと視線を移す。 一体いつからいた等々質問は多くあるが、それ以上に不愉快…

  • 海をあたう

    1 酒場で酒を嗜む。 周囲のざわついた空気の中で、はクロコダイルの半分ほどに減ったグラスに酒を注ぎ足した。こぽんと瓶の中に泡が入り、ぼとんとグラスの中を酒が満たす。あふれそうになるくらいに入れようとしたので、見かねたクロコダイルはもういいと…

  • 海賊と海兵

    1 目の前の男を眺める。 口に咥えた二本の葉巻からはもうもうと煙が立ち上り、それがスモーカーの視界における視認をある程度妨げていた。 しかしながら、彼にとってはそれは日常茶飯事の出来事であり、今更ながらにして追求すべき事柄ではなく寧ろ、その…

  • 追うもの追われるもの

     凪いだ海面を泳ぐ一隻の甲板の上ではMARINEの帽子を各々被った屈強な男共が所狭しと動き回っていた。天候が変わりやすい新世界においてでも、島の周囲では気候が落ち着いており、穏やかな風が肌をさらった。その風の中に葉巻の煙が飛ばされるようにし…