Lose a leg rather than a lifes.
1 部下を放してもらおうか。 男は、愛くるしいぬいぐるみを抱えて涙ぐんでいる少女の頭部に銃口を押し付けてそう言った。どうやらかくれんぼをしていた少女は避難勧告を聞き逃していたようだった。強めに押し付けられた銃口は震えている。少女がそれを見た…
砂漠の英雄
1 蝋印をで封をされ、丸められた筒状の書状が差し出される。 皺の寄った、年を感じさせられる手から差し出されたそれをは一度見下ろし受け取ると、再度顔を上げてつるへと視線を戻す。顔も手と同じように多くの皺が刻まれており、年が感じられたものの、そ…
A terrifying encounter
毒々しい目に痛い桃色の、羽毛のコートが廊下を埋めた。 通常の人よりも軽く二倍は大きい身体を軽く前方へ曲げ、普段使っている表情筋を逆に使い、口をへの字に曲げて不機嫌をこれ以上ないほどに露わにしていた。 そんな海軍本部に召集されたドレスローザ…
バナナワニ
凶暴な生き物。獰猛な生き物。危険な生き物。アラバスタ王国における速脚ランキング第二位を誇り、海王類でさえ食べるその強大さ。人の何十倍もあるその体躯は凛々しく雄々しい。石柱が一体何本あるであろうかと考えられるそのしっかりどころかどっしりした…
Looking Glass
1 この女は鏡を持っていないのだろう。持っていないに違いない。そもそも、鏡と言うものの存在を知らないのかもしれない。自分を左右対照に映し出すそのもの。曲がったものではない限り、それはそこはかとなく正確にそのものを表現する。髪の一筋、肌の色一…
貞操観念
大した理由だろうか、と女はそう言って、男に預けていた体重をほんの少しだけ重くした。 クロコダイルは背を合わせている状態に、預けられた体重の分だけ反対に体重をかけ直すとその釣り合いを保った。両者から預けられる体重が均等であれば、それはソファ…
Justice of yours
1 あのこの戦い方は綺麗なもんさ、と老兵は言った。 ドフラミンゴはつるの隣で桃色のコートを揺らしながら、背もたれに腰かけている椅子をがたんと揺らして、普段から笑顔を絶やさないその口元をいつもよりもほんの少しばかり大きめに吊り上げた。つるはそ…
How to cry.
1 こんなところに居たのか、としっかりとした両肩を寒い風に晒している女の背中を眺めて思う。砂漠の夜は冷える。その中で女は一人ポツンと、否、独りぽつんとバルコニーに凭れかかっていた。冷たい風がひょうと間をすり抜けていく。夜空に浮かんだ月は、澄…
馬鹿で不器用な
1 ゆらめく。ゆらめく。ゆらぎゆく。波の音。 耳に溢れる潮騒の音と鼻に香るその香を一杯に吸い込んで、海に飛び込む。体ごと放り投げて、海に沈む。どぷんと音を立てて沈めば、水分を枯渇させていた肌は水をあふれさせていく。吸い込んだ分だけ体は重くな…
誇り高き
1 騒がしい空間。笑い声。酒の匂い。転がされた酒樽。旨そうな料理の香り。腹を剥きだしにして寝ている男。その腹には人の顔とおぼしきものが筆で描かれている。とぷとぷと視界の端ではコップに大量の酒が注がれ、縁から溢れている。注いでいる人間も注がれ…
我らが大佐
1 さて、とは海賊船を見下ろす。甲板に座らされた海賊の腕にはそれぞれ重たい手錠が嵌められており、その自由を奪っていた。これで全員かと隣に立っている中佐に女は一度確認し、はいそうです、との返事に納得して帰還すると正義の二文字をはためかせて踵を…
お噂はかねがね
ああ、お噂はかねがね伺っております。 そう、目の前の額に傷跡を残す男は自分に告げた。ドフラミンゴは男を見下ろす。人のよさそうな笑みの向こうに何かしらいやらしそうな色が見える。性的な意味ではなく、性格的な意味で。もしくは性質的な意味で。つま…
Brute
1 船員が持っていた望遠鏡をその手から奪い取った。遥かかなた、その用具を使わなければ目にすることもかなわない光景を、ドフラミンゴは望遠鏡のそのガラスに、サングラスを持ち上げて目を押し当てた。ガラスの中の小さいはずの遠い世界は、まるでその場に…
友人
友と呼ぶ。 ただそれだけのことである。クロコダイルは燭台に灯された蝋燭をふぅと唇をすぼめて吹き消した。冷たく熱を持たない鉤爪がひゃりとしたまま頑丈かつ精巧に作られた机を叩き、中身の詰まっている重たい音を奏でる。 筋肉が張り詰められている腿…
大馬鹿もん
1 筋張った拳が丸刈りにされている頭へと直撃した。重たい音が、音のない部屋に鈍く響く。「馬鹿もん」 包帯を巻きつけてベッドに座っていた男は、上背のある女に殴られた頭をさすりながら、片側の口の端を小さく持ち上げて減らず口を叩いた。「可愛い可愛…
ガラスの靴
1 首を傾けて音を鳴らす。はその大きな手で扉を押し開けた。 普段むさくるしい、もとい同じ服装ばかりしている連中が正装し、整然としている様は不気味であり、多少の眩暈をは覚えた。喉を重たく鳴らし、履きなれないヒールでただでさえ高い背丈をより高く…
死体
1 波立たない水に血を垂らしたような色である。 ドフラミンゴは温度を持たない眼球を視界に収めながらそう思った。常日頃からそのように思ってはいた。口にする機会はとんとなかったものの、女の目を顔を見る度にドフラミンゴはそう思い感じていた。その目…
劇場にて
1 豪奢な装飾に覆われた指輪をはめた指が、長方形の紙片を二枚、揃えて女の方へと差し出していた。その行動は男にとっても女にとっても他意はなく、それ故に、紙を二枚、正しくはチケットを二枚差し出された女は差し出されたチケット二枚が何であるかを、広…
目にもの見せて
面白くない。 面白いはずもないのだ。 ドンキホーテ・ドフラミンゴは、長く続く廻廊に等間隔に立つ柱を爪先の剃り上がった靴で蹴り付け、消化しようのない苛立ちを発散しようと試みた。強く蹴った柱は細かな振動と共に手の届かない場所の埃が揺らされ、ひ…
三人と二匹、重複は一
わん。 動物、それも人との歴史が最も長いとされている四足歩行する生き物の鳴き声をスモーカーは聞いた。聞き間違いかと、ぐるりと周囲を見渡して何もいないことを確認し首を傾げる。幻聴か、それとも耳が悪くなっただけなのか。そうこう悩んでいると、も…
君を思う
1 生きるために必要な悪事は一通りこなした。 小さな汚泥に塗れた手に視線を落とし、幼い少女は考えた。窃盗恐喝強盗。凍えるほどに冷え込む夜は船長の形見である刀を抱き込んで眠った。幼く見かけは少年体は少女というこの体はよく売れることも覚えた。 …