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守護者

 VARIAの紋章が刻まれた厳しい箱に納められているのは六つの指輪。一つだけ箱に納められてはいないのだが、それは自分の指に既に嵌められていた。父であるXANXUSから受け継いだその指輪は思いのほかしっくりと指に落ち着いており、まるで随分と昔…

死に臨む

 銀朱色の瞳をもった男を恐ろしいと思ったことは一度もなかった。 月に一二度は顔を合わせる機会があったし、彼はその度に林檎かアップルパイか、林檎ジュースか、兎も角林檎関連の何かをもぐもぐと口にして、気さくに挨拶代わりの声を掛けてくれた。時には…

だから、

 だから、とイルマは軽く息を吐いた。その隣では黒髪に銀朱の瞳をその身に宿した男が、紙コップに入ったコーヒーを傾けて飲んでいる。睡眠不足なのかどうなのかは定かではないが、その目の下にはうっすらと隈ができていた。あふ、とカフェインを摂取した後に…

La preoccpazione

「ラヴィーナ?」 びくっとその小さな背中が大きく震える。いつも布をかけているその顔には、今日は奥が外側からは一切見えない特殊仕様のサングラスをかけており、服装もどこか可愛らしさを感じさせるものである。肩に掛けている鞄の肩紐にラヴィーナのその…

A prima vista

 Io innomoro a prima vista. そう表現するのが最も正しい。何気なく違う散歩コースを選んだのが、幸いだったのだろう。運命を信じるほどには、自分は信心深くない。ただその一つの選択と偶然が重なって、出会った。出会った、と…

先輩からのお言葉

 乗せた拳が頬骨を砕いた音が、密閉された室内に響く。尤も通風孔は開かれたままなので、完全に密閉されたとは言えない。室内の空気は、骨を折るという行為によって生じた鈍く重たい音を、同じ室内にいたもう一人の男と、殴られている男の耳にしっかりと届け…

Rivali in amore

 セオ、と掛けられた声に、セオは大きな体をのっそりと動かして声のした方向へと顔を向けた。しかし視線の先には誰もいない。なんだと思いつつ眉間に軽くしわを寄せた時に、下からひょいと手が伸びてきた。そしてああ、とセオは下へと視線をずらす。高すぎる…

falso rapimento

 好きな人に振り向いて欲しいと言うのは、決して我儘などではないと思う。こっちを向いてと、興味を示してと、そう思うことの一体どこかいけないことなのか。 愛している愛している。愛しているから、振り向いて欲しい。彼がこちらを向かないのを知っていて…