Reborn!

Como e Lavinia

1 今日も死体の解体をする。跡形も残さず、まるで牛を捌くかのごとく包丁を滑らせ肉と骨を断絶する。筋肉の部位、神経の位置、臓器の在り方。それら全ては、死体を捌いている人間の頭の中に入っていた。どの神経を切断すればどの筋肉が動かなくなるのか、ど…

La madre mia

1 アルコール中毒の父親。薬物中毒の母親。どうして生きてこれたのか、それは自分が一番聞きたい。あの劣悪極まる環境で自分の命が持っていたのは奇跡に近い。尤も最終的には、捨てられた。ゴミのように。 雪の中吹雪が皮膚を突き刺して、ああもう死ぬのか…

La bugiarda

「おーい、セオ!先生が呼んでる!」 金色の髪でずんぐりむっくりな少年が教室の入り口で手を振っている。中学生にしては随分と高い背は、もう少しで入口の上部にくっつきそうな勢いである。 セオはすっくと立ち上がって、教師に呼ばれたとその場を離れた。…

それは簡単なこと

 少年は馬鹿だったが、愚かではなかった。 少年は馬鹿だったが、頭が足りないわけではなかった。 少年は馬鹿だったが、残忍ではなかった。 少年は馬鹿だったが、自分のことしか考えないわけではなかった。 少年は馬鹿だったが、  お兄ちゃん…

Buon Compleanno!

 自分が産まれた日を喜ばしいと思ったことは一度もない。産まれてきてよかった、だとか、産んでくれて良かったと感謝したこともなかった。ただ今生きているのは自分がそうありたいと望んだだけの結果であり、それについて感謝も何もない。 ドン・バルディは…

男の話

 全身の力を抜く。しかし一本だけ頭頂部から背骨を通るその一本の筋だけは折らないようにまっすぐと力を込めて、姿勢を正す。瞳を閉じて耳を澄ませ、肌で風を感じる。遠くから流れてくる音と近くでそよぐ波に意識を散らしながら、ラジュは静かに、どこまでも…

此処は何処

 すとんと刃が相手の肉を切り裂き、そこから血が大量に溢れだす。暗闇の中を真赤な色が染め上げる。 足元には無数の動かぬ骸。廃ビル内部は薄気味悪い色で染まり、そこには錆びた鉄の臭気が充満していた。月の光も届かぬその中で、一人の男、男と判断するの…

シャルカーン・チャノ

1 肌に触れる手。それを汚らしいと思う感覚も感情も、既に持ち合わせていない。突き上げられる嫌悪感に吐き気を覚えながら、善がっているふりをする。気持ちよくもない行為を白いシーツの上で繰り返す。 前方ガラスの部屋の奥では、獣が子供を食べていた。…

東堂雅と幸福

1 女に出会った。何のことはない、仕事先の同僚。けれども彼女はとても優しかった。それが上辺だけの優しさなのか、それとも本当に優しくしてくれていたのか。その時の自分には全く分からなかった。けれども、その優しさは温かくて、心地よくて、一生浸って…

Wilhelm und Wolfgang

 小さな鳥が死んでしまった。 車にはねられて死んでしまった。あっという間に死んでしまった。目の前で死んでしまった。さっきまで空を舞い、歌を歌っていたのに死んでしまった。あっさりと死んでしまった。 死んでしまった。小鳥は、死んでしまった。 も…

シルヴィオと大地

「今回に関しての仕事はこれで終わりか、爺さん」 シルヴィオの問いかけに、縁側に腰かけている老人はその鋭い瞳をゆっくりと動かした。双眸がシルヴィオの深い青と緑の混じった瞳とかちあう。 老人は、元組長は、大地という男は静かにそうだ、とその質問に…