親世代

37:子供の我儘

1 セオ!と明るくかけられた声に、セオは鞄に道具をしまっていた手を止めてそちらへと目を向けた。同い年の子供たちが集まって、セオと同じように帰る支度を始めている。「おれんとこさ、バッボとマンマが見にきてくれるんだ!」「あ、わたしのパパーとマン…

36:心配なんです

1 大きくなったものだ、とはさくんと手元の海老フライを切った。足元ではセオがきらきらと目を輝かせながら、の手元を覗き込もうと背伸びしているが、如何せん背がまだまだ低いため、キッチンの台で母が一体何をしているのかは見えない。ただ、美味しそうな…

34:Buoun Compleanno

1「ハァ」 そう、間抜けな返事をした笑い顔の男に赤い目をした男は、何だと僅かに眉間に皺を寄せた。さも不機嫌そうな顔をされて、シャルカーンはイエイエと袖を軽く振って笑う。尤ももとより笑い顔なので、笑ったのは声だけではある。 そしてシャルカーン…

33:進路相談

1 嵐は突然やってくる。天気予報で予測できないそれは、くるんと訪れどろんと消える。しかし嵐とは古今東西、多分きっと、そういうものなのだろう。  ぶぶ、と携帯電話が震える。は皿を洗っていた手を止めて、水で濡れてしまっている手をタオル…

32:情操教育

1 がつがつと足音大きく闊歩する男が一人。その隣で、ごつごつと鈍い音を響かせて横を歩く大男一人。シルバーの髪がざらざらと歩くたびに揺れており、その表情はどこか鋭い。けれども、片腕に抱えているペットを入れる籠がどうにもそれをそうと見させていな…

31:二人でお留守番

1 文字の書かれた紙。サインをするための万年筆。インク。固い机。座り心地のよい椅子。それから光のさしこむ窓の両脇に縛られた重厚なカーテン。そして、人間の言語を果たして解しているのかどうなのか、微妙な生物。絨毯の上に腰をおろして、クレヨン片手…

30:la Morte

1 翁面。それをかぶっている人間の体付きは男のものである。 外は暗闇。その中で白いその翁の面だけがぽっかりと浮いていた。月の光すらも届かないところで、ただ家の光をその白い面は受けている。 するりと男の腕が持ち上がって、インターホンを鳴らす。…

29:こっちを向いて、バンビーノ!

1 きゃら、とその表情が笑顔になる。銀朱の瞳が細められ、小さな手が持ち上がった。赤子特有の目元。一歩、体がうつぶせの状態から腹が持ち上がって手足の筋力だけで前進する。 そんな様子を見ている白髪の老人が一人、目を赤子に負けず輝かせてとろぉりと…

28:貴方の妻であるということ

1 かぷり、と吐きだした煙が随分と煙たかった部屋に混ざって溶ける。シルヴィオは火のついた煙草を口にくわえて、悪ぃな、と笑った。「なにしろ嬢ちゃんと赤んぼがいたからな。流石にあの前で吸うわけにもいかねーし」 困ったもんだよなぁ、と笑って、そし…

27:自覚と覚悟

1 落ち込んでいる、とは少し違う様な感じがする。 XANXUSはグラスを傾けて、氷を鳴らしながらテキーラを喉に注いだ。冷たい味が舌の上に転がってから、食道へ、胃へと落ちていく。 別段無理をして笑っている様子もないし、もう何日前になるか覚えて…

26:振り回されて三回転

1「―――――――――ボス」「何だ」 書類を片手に、スクアーロは目の前の光景に絶句したい気持ちを抑えつつ、男の呼称を呼んだ。男の方は悪びれる様子一切なく(実際ないのだろうが)全くもって横柄な様子でそう返事をした。返事をするのはいい。構わない…

25:新しい命

1 ずくん、と弱い痛みが体を貫いた。 しかし予定日よりも二ヶ月ほど早く、おしるしもないので、はその痛みに軽く首をかしげた。その動作にXANXUSのペンを握っていた手が止まる。「どうした」「あ…いえ」 なんでもありません、とは笑って首を横に振…