文章

Morte manterno

1「どうにも、ならねぇか」「ドウニモナリマセン」 頭髪を一切持たず、その代わりに刺青をその頭に彫り込んだ、色の強い肌の男はXANXUSの呟きに大変、冷静沈着に、覆ることの無い事実だけを述べた。 XANXUSは深く椅子に腰掛け、その体重を預け…

лавина

1 指先で一枚の紙を折り続ける。 一つ折り二つ折り、また三つに折り四つに折る。掌の中で見る間に小さくなっていくそれは、とうとう厚みだけを増やして折ることができなくなった。端と端を丁寧に折り合わされたものは、乱雑に折られたそれよりもずっと小さ…

Чужая душа-потёмки

 長く白く続く廻廊の先から、怯えにも似た引き攣り上がった悲鳴に近い声が空気を震わせた。あまりにも小さなそれではあったけれども、大層耳の良い男にとって、聞き取るには十分の声量であった。 ひょうたん型の、ウエストはきゅっと引き絞られ、上と下は滑…

услода жена

 気泡が液体に浮く。 瓶の中に詰められている飲み物は気泡の入った分だけ、その内容量を減らした。色のついたボトルの底を天井に向けていた状態から、膝の位置に下げる。瓶のヴォトカは半分程度、男の胃の中に消えていた。一人はソファに深く腰掛け、一人は…

愛の距離

 君は、と掛けられた声にセオはそちらに視線を向けた。左にはジーモ、右にはドンと古くからの友が座っている。各々の手には食べ物、もしくは飲み物が持たれていた。 場所はジーモの部屋のベランダ。時刻は昼時。天気は快晴。ランチには全く素敵な三つの要素…

Молчание знак согласия

 こつん、と白さが際立った指先が机を軽くノックする。重さを持たないその音に、ラヴィーナは本から目を離して顔を上げた。目をしっかりと覆っている布がそれに合わせ、ほんの少しだけ靡く。が、その奥に潜ませてある彼女を生物兵器たらしめている瞳が周囲に…

Нет розы без шипов

1 きゅぽんと口からヴォトカの瓶を外す。男は空になった小瓶を机の上に放り投げ、机に着地した瓶はくるからと回転しながら、その中央に置かれているグラスに衝突して止まった。からん、とカーテンの閉められている部屋に乾いた音が響く。男の手は一二度宙を…

Небрежность

 いよぉおおし!とセオはカレンダーを見てガッツポーズを決めた。その隣では頭二つ分は低いラヴィーナもほっと胸をなでおろしている。兄妹揃っての不可解極まりない、ともすれば変わり者扱いされそうな二人の行動を背中から眺めつつ、どうした、と火のついて…

Поедйндк

 ぶは、とラヴィーナは飲みかけていた茶を噴きだした。げほげほと咳込みながら、目の前に居る男に口元を盛大に引きつらせる。爽やかな笑顔で「彼」はそこに座っていた。「Добрый день(こんにちは)」「…」 ラヴィーナが斜めに噴きだした紅茶は…

Плотоядное животное

 ヴォトカの入った瓶を逆さまにする。ぐびりと液体が喉を通り、体を内側から熱くさせる。極寒の地のロシアでは、ヴォトカを飲んで丁度良いくらいの暑さだったが、ここイタリアでは気温が高いために全く暑いくらいである。あの刺すような冷たさが懐かしい、と…

Di sangue

 幸せである、とセオは思った。 目の前にある笑顔。溢れる花の香り。柔らかな声、口調。ドンに言わせれば、客相手に乱暴な言葉づかいをする人間はいないのだそうだが、そんなことは些細な問題である。ようは彼女の声が聞ければ、セオはそれだけでもう十分に…