夢小説

27:自覚と覚悟

1 落ち込んでいる、とは少し違う様な感じがする。 XANXUSはグラスを傾けて、氷を鳴らしながらテキーラを喉に注いだ。冷たい味が舌の上に転がってから、食道へ、胃へと落ちていく。 別段無理をして笑っている様子もないし、もう何日前になるか覚えて…

26:振り回されて三回転

1「―――――――――ボス」「何だ」 書類を片手に、スクアーロは目の前の光景に絶句したい気持ちを抑えつつ、男の呼称を呼んだ。男の方は悪びれる様子一切なく(実際ないのだろうが)全くもって横柄な様子でそう返事をした。返事をするのはいい。構わない…

25:新しい命

1 ずくん、と弱い痛みが体を貫いた。 しかし予定日よりも二ヶ月ほど早く、おしるしもないので、はその痛みに軽く首をかしげた。その動作にXANXUSのペンを握っていた手が止まる。「どうした」「あ…いえ」 なんでもありません、とは笑って首を横に振…

24:妊婦と旦那

1 自称も他称も王子の青年は、胸に金銭欲に満ち溢れているというか金銭欲しか持ち合わせていないのではないだろうかという赤子の容姿をしたものを腕にしていた。そして金銭欲溢れる赤子のような姿をした、しかしながら口調そのほかともどもそれは赤子と見る…

23:この子は

1 ごろごろと床の上を車輪が転がる音が歩いて行く。そして、それに合わせてこつんこつんと軽めのブーツの音が廊下に響いて行く。 ゆるやかな服が目の前で閉じられている扉に触れた。そして、それにぐっと力がこもる。力が加わったことにより、扉は進行方向…

22:Vivissimi augri di buon matrimonio

1 どん、と目の前に箱が置かれた。 は飲みかけた味噌汁を口元から離して、置かれたその箱に視線を注ぐ。ルッスーリアとマーモンを除いた他の、スクアーロやベルフェゴールそれからレヴィはそれが一体何なのか分からずに同様それに注目した。少し先に朝食を…

21:父と子

1「こんにちは、お嬢さん」 柔らかな笑みを白いベンチに腰かけて向けてきたのは一人の老人だった。 は野菜が入っている袋を片手に持っている状態で、自分以外の人間が周囲にいるかどうかを確かめる。しかしそこにいたのは明らかに自分だけで、老人が声をか…

20:飲めども呑まれるな

1 トランクにぎゅ、とものをと詰め込んで修矢はトランクをバタンと音をたてて閉める。よし、と頷いた修矢に哲が後ろからひょいと袋を差し出して、忘れものですよと声をかける。「それ…なんだ?」 買った記憶のない袋に修矢は怪訝そうに眉を顰める。そんな…

19:義弟と義兄の関わり方

1 銀色をなびかせながら、人ごみの中を歩く。電光掲示板を眺め、そろそろ出てくる頃かと思いつつゲート前の椅子に腰掛ける。日本から、ということで一体誰が来るのか分からないが迎えに行けと命令されたからには行かなくてはならない。 一体誰が来るのかは…

18:楽しい休暇の過ごし方

1 修矢はカレンダーをめくって、にやっと笑う。四月から五月へとカレンダーは月が変わったのを示していた。そのにやにやと気味が悪いほどに浮かれている修矢の腕の中には大量の冊子が持たれている。「どうされましたか」 そんなににやつかれて、と哲は未だ…

17:本当のところは

1 裸足で冷たい廊下を走って走って、は扉を肩を揺らして押し開けた。視界が広がった先には、数日会えなかった友がいる。そして彼らの瞳も同様にを捉えた。、と声が沸く。 ルッスーリアは本当によかったわぁとに駆けより、スクアーロはその肩をバンバンと叩…

16:どうか

1 窓のない部屋に一瞬で広がった空に安堵した。涙が出そうなほどに安心した。心から、そう思った。だが次の瞬間その空に焼かれた。空にまき散らされた赤い炎に食らわれた。 思考が分解され、開かれた嘴からは悲鳴が零れた。呼吸をするたびに入ってくる酸素…