夢小説

此処は何処

 すとんと刃が相手の肉を切り裂き、そこから血が大量に溢れだす。暗闇の中を真赤な色が染め上げる。 足元には無数の動かぬ骸。廃ビル内部は薄気味悪い色で染まり、そこには錆びた鉄の臭気が充満していた。月の光も届かぬその中で、一人の男、男と判断するの…

シャルカーン・チャノ

1 肌に触れる手。それを汚らしいと思う感覚も感情も、既に持ち合わせていない。突き上げられる嫌悪感に吐き気を覚えながら、善がっているふりをする。気持ちよくもない行為を白いシーツの上で繰り返す。 前方ガラスの部屋の奥では、獣が子供を食べていた。…

東堂雅と幸福

1 女に出会った。何のことはない、仕事先の同僚。けれども彼女はとても優しかった。それが上辺だけの優しさなのか、それとも本当に優しくしてくれていたのか。その時の自分には全く分からなかった。けれども、その優しさは温かくて、心地よくて、一生浸って…

Wilhelm und Wolfgang

 小さな鳥が死んでしまった。 車にはねられて死んでしまった。あっという間に死んでしまった。目の前で死んでしまった。さっきまで空を舞い、歌を歌っていたのに死んでしまった。あっさりと死んでしまった。 死んでしまった。小鳥は、死んでしまった。 も…

シルヴィオと大地

「今回に関しての仕事はこれで終わりか、爺さん」 シルヴィオの問いかけに、縁側に腰かけている老人はその鋭い瞳をゆっくりと動かした。双眸がシルヴィオの深い青と緑の混じった瞳とかちあう。 老人は、元組長は、大地という男は静かにそうだ、とその質問に…

哲とシルヴィオ

1 初め見た時、なんて荒んだ目をしている餓鬼だと思った。 この平和な国でこんなひでぇ目をしているやつに出会うことになるとは思っていなかった。ここはシチリアではないというのに。まるで冷たい路地に転がされた獣の目をしている。 俺のそんな思考を引…

43:柔らかな屍

1 靴紐が切れた。 一昨日血塗れになったスニーカーは昨日綺麗に洗って陽の下で干してしっかりと乾かしたため、いつも通りの色を保っていた。はたから見たそれは一般人のそれと全く変わらない。 新しい靴紐を靴棚から引っ張り出す。切れてしまった靴紐を引…

42:狼煙

1 天井は高く、天を囲う木は表面を美しく磨き上げられ、光沢を伴っている。豪華な、しかし決して華美ではないシャンデリアが上から吊るされている。今時蝋燭で灯すタイプのそれは、柔らかな光を部屋へと落としている。部屋は広すぎもなく、しかし決して狭す…

41:兄として

1 どうしてだろうか、とセオはごつんと自分の頭を突いてきた匣兵器の攻撃を受けて盛大に溜息を吐いた。もういい加減に突かれることも引っ掻かれることも慣れてきたという悲しい現状にひそやかに涙を心の中で落とす。言うまでもなく、そんなところで涙を落と…