第3部「我儘な彼と寛容な彼女」

  • 13:嫉妬深いカレ

    1「いらっしゃ――――――いっ!!」 飛行機から降りて、車に乗って向かった先は以前世話になった古城のような場所。そして晴れやかな声とともには歓迎を受ける。あぁんと下がった眉尻が特徴的な男性。「ルッスーリア!」 開かれた胸にはぱっと笑顔になっ…

  • 14:亀裂

    1「ああ、クソ!」 よりにもよってこんな時に、と男は溜息をついてカフスの取れてしまった袖をいじくる。しかしどう努力したところで、カフスが戻るわけもない。深く深く溜息をついて、がっくりと肩を落とした。 これから自分はジロッティファミリーの一人…

  • 15:沈黙の掟

    1 スクアーロは投げつけられた土鍋を台所に持って行って、それを流し場の中に置く。花瓶や何やらで殴られているとはいえども、やはり痛いものは痛いのだ。後でことの原因の辺りに見てもらおうと頭をさする。蛇口を上げて水を出し、それを溜めておく。「あら…

  • 16:どうか

    1 窓のない部屋に一瞬で広がった空に安堵した。涙が出そうなほどに安心した。心から、そう思った。だが次の瞬間その空に焼かれた。空にまき散らされた赤い炎に食らわれた。 思考が分解され、開かれた嘴からは悲鳴が零れた。呼吸をするたびに入ってくる酸素…

  • 17:本当のところは

    1 裸足で冷たい廊下を走って走って、は扉を肩を揺らして押し開けた。視界が広がった先には、数日会えなかった友がいる。そして彼らの瞳も同様にを捉えた。、と声が沸く。 ルッスーリアは本当によかったわぁとに駆けより、スクアーロはその肩をバンバンと叩…

  • 18:楽しい休暇の過ごし方

    1 修矢はカレンダーをめくって、にやっと笑う。四月から五月へとカレンダーは月が変わったのを示していた。そのにやにやと気味が悪いほどに浮かれている修矢の腕の中には大量の冊子が持たれている。「どうされましたか」 そんなににやつかれて、と哲は未だ…

  • 19:義弟と義兄の関わり方

    1 銀色をなびかせながら、人ごみの中を歩く。電光掲示板を眺め、そろそろ出てくる頃かと思いつつゲート前の椅子に腰掛ける。日本から、ということで一体誰が来るのか分からないが迎えに行けと命令されたからには行かなくてはならない。 一体誰が来るのかは…

  • 20:飲めども呑まれるな

    1 トランクにぎゅ、とものをと詰め込んで修矢はトランクをバタンと音をたてて閉める。よし、と頷いた修矢に哲が後ろからひょいと袋を差し出して、忘れものですよと声をかける。「それ…なんだ?」 買った記憶のない袋に修矢は怪訝そうに眉を顰める。そんな…

  • 21:父と子

    1「こんにちは、お嬢さん」 柔らかな笑みを白いベンチに腰かけて向けてきたのは一人の老人だった。 は野菜が入っている袋を片手に持っている状態で、自分以外の人間が周囲にいるかどうかを確かめる。しかしそこにいたのは明らかに自分だけで、老人が声をか…