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表現欲

 底の見えない空間に眩い煌めきを繰り返す星屑は、窓枠の乗り越えによる恐怖の一撃を食らったエミリーを見つめていた。 見つめている、という表現はいささかおかしいが、それでも、その空間は真っ直ぐに、ただただ無言のままに向けられている。 長い、途中…

火中の栗

 白黒無常の白無常はプライドが高い。 ふと、そんな話題になった。 エミリーはサバイバー側の待機室で、人格の調整をしながら、黙ったままその話を聞く。「板に当たった後に、服についた汚れを落とすところとか、攻撃を当てた後のあの表情や髪を払う仕草と…

フェチシズム

 かっちりとした礼装に自然と背筋が伸びる。 黒の光沢のある生地を金縁で引き締め、深みのある赤の差し色を使った衣装。 腰を締めるコルセット様の太いベルトが女性特有の胸部の膨らみと腰のラインを強調させる。しかし、左肩から下げたペリースと太腿の中…

傍観者

 梟が闇夜に鳴く。 羽ばたきと共に擦れた葉が音を立てれば、鼠の末期の悲鳴が夜風を取り込む窓から飛び込んでくる。酒の肴には些か耳障りであった。 木製の椅子が二つに、それに座る男が二人。 片方は新月の夜を、もう片方は月光の眩さを溶かし込んでいる…

ねらう

 珍しいこともあるものだ。 エミリーはよく知るハンターが名を連ねる、未だ誰一人負傷していない協力狩りでそう思った。 サバイバーのチェイスが上手い、というわけではなく、単純にハンターが攻撃をしていないだけである。アイテムを購入できる電話機の下…

寒気

 鳥肌が立つような冷気が足元を這う。 エミリーは寒気から体を震わせ、腕をさする。視線を滑らせれば、開いた窓から流れ込む風でカーテンが持ち上がっていた。夜の風は冷たい。そのせいだろうかとエミリーは思いつつ、開いたままになっていた窓を閉め、鍵を…

狗に厭く

 先日の一件以来、心なしか謝必安に乱暴に抱かれるようになった。乱暴に、というよりは執拗に、というべきか。今までが執拗でなかったかと言われれば答えに詰まるところだが、明確な意図を持って抱き潰されている。 エミリーは腰の痛みを和らげるように摩り…