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独占欲

1 どこまでいっても自分はハンターで、彼女はサバイバーなのだと思い知らされる。 高揚する気持ちを抑えきれず、謝必安は胸を押さえた。 傘で、その柔らかな肢体を突き飛ばし、肉を抉った感触が掌に残っている。それは忌避すべきものなどでは決してなく、…

後知恵

 ずうずうしいという単語は彼のためにあるのかもしれない。 傘をさしたままベッドの上にちょこんと、その長い脚を折りたたんでにこやかに座っている白黒無常の、謝必安の姿を扉を開けるや否や見つけてしまい、エミリーは額を押さえて、開けたはずの扉を閉じ…

目には目を

 通電した。 ジョゼフは溜息を落とす。 ホワイトサンド精神病院に、祭司、占い師、機械技師はどうにも分が悪い。最後の一人は、医師だった。祭司と機械技師に翻弄されている間に気づけば、全ての暗号機を解読してしまっていた。 壁を震わせる様な通電の轟…

悪化

 必安が、気にしていたからだ。 范無咎はそう思っている。 一つ。嵐の日に必安がソファで眠ってしまった後、医生は一枚では足りない毛布をもう一枚必安の膝にかけ、そのまま舟をこいで寝てしまった。だから、姿を現し、すっかり冷めてしまったホットミルク…

おもてなし

 子供染みた、大人気ないことをした自覚は十分すぎるほどにあった。 サバイバーには写真家と称されるハンターは、失血死寸前で雪面を這う医師の姿を映しだした写真を手の中で弄びながら紅茶を嗜む。 しかし彼女にも非がある。非が、ある。 ジョゼフは嵐の…

狼の伴侶

 狼の伴侶は生涯唯一人。 「いらねえ」 差し出された写真を持ってきた役人に滑らして返す。余計な御世話だ。 男やもめ、八重が死んでから二年が経つ。 死んで一年は現世の家に帰らなかった。寄り付きもしなかった。 あの家は細部に至るまで、八重との思…

君と初めて会った日

 初めてはどこだったの。 他愛もない一言は誤解を生む一言でもあったが、刀の主は正確に意味を汲み取った。 「薬局だ」 薬局、と刀は繰り返した。 毒のせいで声の張りはないが、その響きはひどく懐かしむもので、顔布で目元が見えなくとも、布越しに見え…