夢小説

指先の触れる

 いつからだろうか。 いつから、隣にこの女が居ることが普通となったのだろうか。 いつからなどともう既に覚えていないクロコダイルは、海楼石で作られた手枷の重さを腕にずっしりと感じながら、そんな事を頭に思い浮かべた。実質、それを考える他に取り立…

どうも、お久しぶりです

1 裸足が冷たい石を叩く音。 ここ、LEVEL6に来る囚人はとても少ない。そうそう沢山居ても困りものだが。ひたりひたりと囚人の落ちた足音と、看守とマゼランの重たい足音が同時に響いて来る。男の囚人に周囲の反応は薄いものかと思われたが、それはの…

預けもの

 酷い咳が連続して個室に響く。 簡易ベッドに横たわる女の額には冷たく絞られて畳まれた布が置かれている。しかしその冷たい布も、女の額の熱を吸い込んであっという間に温くなる。顔色は酷く悪く、青色を通り越して紙のように白くなりかけていた。吸い込ん…

捨て置かれた

1 一室。窓からの採光が部屋に暖かい。その部屋の木製の机を前に座り、革張りの椅子の背凭れに全体重を預けた白猟の二つ名を持つ男は、いつも通り葉巻を二本咥え、机の前に立つ一名とその後ろに立つ二名と顔を合わせていた。 あの女がインペルダウンに投獄…

疲れ果て

1 大きな大きな、大柄な男をは死んだような目で見上げた。生きる意志も意図も望みすらも失った、そのくたびれた瞳をインペルダウン署長マゼランは自分よりもはるかに小さな女を見下ろした。そして渡された書類を眺める。 元海軍本部准将絶刀の。元王下七武…

置き去り

1 重たい扉が閉ざされる。 ギックは狭い小部屋に一つずつある椅子と机、それからベッドを眺め見て、目尻に一つ二つ皺を増やした。どすんと音を立てて回した椅子に座る。謹慎処分など、全く持って冗談ではなかった。何とも馬鹿馬鹿しい処遇である。あの人が…

正義の名の下に

1 黒と白の囚人服。それは檻のように縦ではなく、横にラインが流されている。だが、檻の中に居る男はその服装を全くしていなかった。それどころか、彼の服は船長そのものの服装で、優雅に葉巻をふかしている。脇にはB.Wの印が入った海賊帽とマントが丁寧…

邂逅

1「わっしも」 そりゃあ驚きましたよォ。老いをその年の数だけ体に刻んだ男は、泡の一切入っていない氷が溶ける音を聞きながら、そう隣の髪の毛が大層膨らんでいる海軍本部における唯一の上司に向けてそう告げた。年配の人間は指を折ればそれなりにいるが、…

You need him.

 金品を没収されると言うのは、囚人として、まぁ至極当然と言えば当然のことである。嵌めていた指輪が取り除かれる様をどこか客観的思考で眺めながら、クロコダイルは静かにそんな事を考えた。ほんの少しだけ己の熱を持った指輪が親指、人差し指、中指、小指…

君を思う

1 生きるために必要な悪事は一通りこなした。 小さな汚泥に塗れた手に視線を落とし、幼い少女は考えた。窃盗恐喝強盗。凍えるほどに冷え込む夜は船長の形見である刀を抱き込んで眠った。幼く見かけは少年体は少女というこの体はよく売れることも覚えた。 …

三人と二匹、重複は一

 わん。 動物、それも人との歴史が最も長いとされている四足歩行する生き物の鳴き声をスモーカーは聞いた。聞き間違いかと、ぐるりと周囲を見渡して何もいないことを確認し首を傾げる。幻聴か、それとも耳が悪くなっただけなのか。そうこう悩んでいると、も…

目にもの見せて

 面白くない。 面白いはずもないのだ。 ドンキホーテ・ドフラミンゴは、長く続く廻廊に等間隔に立つ柱を爪先の剃り上がった靴で蹴り付け、消化しようのない苛立ちを発散しようと試みた。強く蹴った柱は細かな振動と共に手の届かない場所の埃が揺らされ、ひ…