七武海剥奪

籠の鳥

 意識が浮上する。ぼやけた視界に白衣を纏った男が映し出される。それと同時にやはり同じく鮮明ではない音で、国王様、と不愉快極まりない名前が呼ばれた。そして、次第にはっきりとしていくボケた視界を目障りな色が覆い尽した。思わず顔を顰める。ここ数日…

生きたい

1 エースが死んだ。 ビブルカードが焼け落ちたのを、は見た。エースが死んだと言うのに、戦場は未だに揺れ動いている。混戦の中で人々は殺し合う。止まらない世界の中で、は呆然と佇んでいた。白ひげ海賊団が、ジンベエが、クロコダイルが、麦わらのルフィ…

本当は

1 クロコダイルの叫び声が白ひげの耳を震わせる。二人の間の確執をは知らない。知る必要も、また、ない。 スクアードは海軍に騙された。ああ所詮事実などそんなものだ。はパシフィスタの頭を一突きして横に払いながら、その言葉を胸中で繰り返す。戦略だ軍…

Jaws of death

 体が落下していく。落ちても死なない術は身につけているので焦る必要はない。ふと顔を上げれば、処刑台に座す男の姿が見えた。共に落ちて行く黒いコートへと顔を向け、は葉巻をのんびりと燻らせている男に笑いかけた。「じゃあな」「…」「お前に会えて、良…

The last word

1「海は良いな、綺麗だ」 扉に乗った場所から見えた光景に、はそう呟いた。クロコダイルは一歩前に出たために見えるの背中へと視線をずらす。この女は一体何を見ているのだろう、とクロコダイルは思う。海を見て綺麗だと良いと言葉を紡ぐのは、まるで口癖の…

遺志

1 私も連れて行け、と女の声が音の反響する監獄に暗く静かに響く。 ルフィは目の前に居たジンベエから目を反らし、その対面に坐し、暗がりに潜む囚人へと目を向けた。大きな瞳に人一人の姿が映し出される。男だろうか女だろうか、体格からは判断しづらいそ…

指先の触れる

 いつからだろうか。 いつから、隣にこの女が居ることが普通となったのだろうか。 いつからなどともう既に覚えていないクロコダイルは、海楼石で作られた手枷の重さを腕にずっしりと感じながら、そんな事を頭に思い浮かべた。実質、それを考える他に取り立…

どうも、お久しぶりです

1 裸足が冷たい石を叩く音。 ここ、LEVEL6に来る囚人はとても少ない。そうそう沢山居ても困りものだが。ひたりひたりと囚人の落ちた足音と、看守とマゼランの重たい足音が同時に響いて来る。男の囚人に周囲の反応は薄いものかと思われたが、それはの…

預けもの

 酷い咳が連続して個室に響く。 簡易ベッドに横たわる女の額には冷たく絞られて畳まれた布が置かれている。しかしその冷たい布も、女の額の熱を吸い込んであっという間に温くなる。顔色は酷く悪く、青色を通り越して紙のように白くなりかけていた。吸い込ん…

捨て置かれた

1 一室。窓からの採光が部屋に暖かい。その部屋の木製の机を前に座り、革張りの椅子の背凭れに全体重を預けた白猟の二つ名を持つ男は、いつも通り葉巻を二本咥え、机の前に立つ一名とその後ろに立つ二名と顔を合わせていた。 あの女がインペルダウンに投獄…

疲れ果て

1 大きな大きな、大柄な男をは死んだような目で見上げた。生きる意志も意図も望みすらも失った、そのくたびれた瞳をインペルダウン署長マゼランは自分よりもはるかに小さな女を見下ろした。そして渡された書類を眺める。 元海軍本部准将絶刀の。元王下七武…

置き去り

1 重たい扉が閉ざされる。 ギックは狭い小部屋に一つずつある椅子と机、それからベッドを眺め見て、目尻に一つ二つ皺を増やした。どすんと音を立てて回した椅子に座る。謹慎処分など、全く持って冗談ではなかった。何とも馬鹿馬鹿しい処遇である。あの人が…