ジョゼエミ

雲の中で散歩

 梟が鳴く。月は空に浮かび、静寂の中煌々と輝いている。澄み切った夜空に浮かぶ星の線を辿るのは容易い。 ほう。 梟が、また、鳴いた。 エミリーは開いていた医学書を閉じた。時計を見ればすでに一番上の時刻を回ってしまっている。もうそんな時間だった…

慣性

 ワインの色と香りを楽しむ。 ジョゼフはワイングラスを傾け、口元を綻ばせた。グラスの縁に唇をつけ、舌の上でその味と香りを転がしながら存分に楽しむ。「今、何時だと思っているの」「つまらないことを言わないで、君もどうだい」 太陽は真上からさんさ…

崩壊

 後一歩が足りなかった。最果ての暗号機から救助に来るには、遠すぎた。 エミリーの目の前で、エマが座った椅子が飛ぶ。爆風が顔をなぜ、焼け跡だけが残った眼前の光景にエミリーは呆然自失となり、膝をついた。 暗号機は残り四個。 ジョゼフは写真世界か…

指名手配

 のりがよくきき、ぱりっとした、透けるほどに白いシャツを丁寧に畳む。 エミリーはあれやこれやで今だ返却に至っていなかったジョゼフのシャツを紙袋に入れた。昼食前には返してしまいたいところで、時計の針は間もなく十一時を指す。 今日の午前中のゲー…

後遺症

1 珍しいこともあるものだ。 エミリーは、月の河公園でジェットコースターに乗って遊んでいるジョセフとサバイバーの姿を眺めながら、暗号機の解読を一人進めていた。エミリーも一緒に遊ぼうとエマに手を引かれたものの、暗号機の解読が進まなければ荘園に…

独占欲

1 どこまでいっても自分はハンターで、彼女はサバイバーなのだと思い知らされる。 高揚する気持ちを抑えきれず、謝必安は胸を押さえた。 傘で、その柔らかな肢体を突き飛ばし、肉を抉った感触が掌に残っている。それは忌避すべきものなどでは決してなく、…

目には目を

 通電した。 ジョゼフは溜息を落とす。 ホワイトサンド精神病院に、祭司、占い師、機械技師はどうにも分が悪い。最後の一人は、医師だった。祭司と機械技師に翻弄されている間に気づけば、全ての暗号機を解読してしまっていた。 壁を震わせる様な通電の轟…

おもてなし

 子供染みた、大人気ないことをした自覚は十分すぎるほどにあった。 サバイバーには写真家と称されるハンターは、失血死寸前で雪面を這う医師の姿を映しだした写真を手の中で弄びながら紅茶を嗜む。 しかし彼女にも非がある。非が、ある。 ジョゼフは嵐の…