シャルカーン・チャノ - 3/4

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「アナタが、シルヴィオ・田辺デスカ?」
 やけにチャラチャラした男だと思いつつ、随分と流暢になった、それでももとの言語の癖が抜けないイタリア語で話しかける。
 シルヴィオ・田辺という男は、にやっと笑って、そう、と愛想よく返事をした。
「欲しい情報、何でもクレルというノモ、本当デスカ?」
「勿論対価はいただくぜ?で?あんたは一体何を俺から聞きたいんだ?」
「コノ男が今どこにいるのか、知りたいデス」
 す、とそう言って写真を一枚シルヴィオに差し出した。それは、小さい頃の自分とそれから男が一人写っていた。シルヴィオはその写真を手にとって、ふぅんと言うと金額を口にする。そしてその場で払込を携帯で確認させた。
 写真をシルヴィオはこちらに返して、その男は、と返す。
「死んでる。名前はベルナルド・アラゴン。殺し屋だった男だ。長い伝統をもつ殺し屋一族だったが、その男が最後だったな。ここイタリアじゃ、よくよく有名な殺し屋だった。スペインの仕事を失敗して殺された。以上。他に聞きたいことは?」
「――――――――――――、アリマセン」
 ああやはり死んでいたのか、とそんな風に思う。
 かの男の職業はなんとなく想像はついていた(そもそも自分がいた場所に現れたことを考えれば、一般人ではなかったのだろう)そして十年待っても帰ってこないその理由も、何ともなしに、想像がついていた。お帰りもただいまも言い合った仲ではなかったけれども。
 死んだのデスカ、と口に出せば、あらためて自分の空っぽの穴がしっくりと埋まった。長年空いていた穴が、ようやく閉じた。
 死んでから名前を知ると言うのも、随分滑稽な話である。ベルナルド、とはまた随分と格好いい名前だと思う。男をその名前で一度は呼んでみたかったものだと、そんな風に過去を振り返る。
 拾われたのも助けられたのも生活を共にしたのも、ただのきまぐれだったのかどうなのか、今となっては定かではない。しかしながら、男に、ベルナルドに感謝する。墓でも作ってやろうと、そう、静かに思った。
 そしてアア、と思い出したようにシルヴィオに問う。
「絶対に口を割らナイ医者ヲ、ソウデスネ、東洋医学ヤ催眠術系統ナンデスケド、募集中とイウトコロ、ナイデスカ?」
 その質問にシルヴィオは、一拍置いてからにかと笑い、俺は斡旋業者じゃねーんだぜ?と笑った。そしてその後に、シルヴィオ・田辺はある組織の名前を口にした。対価は、煙草一箱だった。