文章

彼女について

 寂しそうな背中がポツリ。目を見せない深みのあるサングラスに映し出された。ドンキホーテ・ドフラミンゴは海軍帽子を坊主頭に被り、正義の二文字を背中に流している男に、口に笑いを含めつつ、歩み寄った。爪先の反り上がった靴が、男の大きさに反して軽い…

I can’t understand.

 飯だけは大人しく食うんだな、と雛に餌を与えるようにスプーンをの口へと運びながらドフラミンゴはそうぼやいた。スプーンに乗せられた飯を上下の顎で挟み唇で金属をなぞりながら、後方に頭を引くことで口の中に食事を運ぶ。下顎を動かし臼歯で飯を磨り潰し…

翼を捥ぐ

 がちん、と拘束具が外される。重たい音が空気を完全に支配した。回された鍵がゆっくりと鍵穴から抜かれ、上の拘束具を片手で外す。もう片方の腕はその手でぎちぎちと女の自由を奪っていた。不愉快気に女の眉間に皺が寄せられている。そんなに怖ェ顔すンなよ…

お前とおれの

 アンタにとって、と掛けられた声にクロコダイルは海風に当たっていた背中から、隣で体を鍛えていたダズへと視線を向けた。空は快晴、雲ひとつなく、雨の匂いはどこか遠くへ流れ、今は唯潮風の匂いばかりが鼻を擽る。あの馬鹿の好きな香りだ、とクロコダイル…

水葬

 赤髪の三本傷が刻まれた髑髏が水平線の向こうへと消える。 凪いだ海に浮かぶ雲は、青く澄み渡った空をゆっくりと泳いでいる。空を覆い隠してしまう程に大きく、逞しく、立派で、雄々しく、敬愛した男はもういない。今はただ、作られた墓に掛けられた外套が…

Why why why?

 腕を拘束している女を下に組み敷く。正しくは床に押し付けた。背中に膝を乗せて体重を掛け、腕を後ろにひねり上げて逃げられないようにする。小さな舌打ちが体の下から鳴った。ひねりあげた腕を戒めていたはずの縄は綺麗に解かれてベッドの上に落ちていた。…

夜鶴

 フフ、と愉しげな、大層愉快そうな笑い声が空気に混じる。つるはその笑い声を口から発し、上機嫌で椅子の背に腰かけている男を見上げた。大きな口を上げてひょいひょいと茶菓子をその中に放り込むようにして食べている。綺麗に食べていないのは意図的かどう…

籠の鳥

 意識が浮上する。ぼやけた視界に白衣を纏った男が映し出される。それと同時にやはり同じく鮮明ではない音で、国王様、と不愉快極まりない名前が呼ばれた。そして、次第にはっきりとしていくボケた視界を目障りな色が覆い尽した。思わず顔を顰める。ここ数日…

生きたい

1 エースが死んだ。 ビブルカードが焼け落ちたのを、は見た。エースが死んだと言うのに、戦場は未だに揺れ動いている。混戦の中で人々は殺し合う。止まらない世界の中で、は呆然と佇んでいた。白ひげ海賊団が、ジンベエが、クロコダイルが、麦わらのルフィ…

本当は

1 クロコダイルの叫び声が白ひげの耳を震わせる。二人の間の確執をは知らない。知る必要も、また、ない。 スクアードは海軍に騙された。ああ所詮事実などそんなものだ。はパシフィスタの頭を一突きして横に払いながら、その言葉を胸中で繰り返す。戦略だ軍…