41:兄として - 3/5

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 スクアーロから渡された狙撃銃の重みを腕に受ける。軽くスコープを覗き、その精度を確かめて頷いた。
 セオはスクアーロの足の後ろに隠れてしまっている髪の毛を見て、軽く溜息をついた。どうあがいても仲良くなれないのだろうかと少しばかり絶望的な一面を見せられる。銃を動きやすいように背に負い、地図の上で動くスクアーロの指の位置を今一度最終確認をする。取り付けてあるイヤホンが壊れていないかもお互いに話しかけてチェックする。異常はなかった。ただ、ラヴィーナの音声機だけは、彼女自身の音を拾うものではなく、こちら側の音を届けるだけのものであった。ラヴィーナの声の音波に関しては、直接的に音波を浴びなければ細胞が破壊されることはないと結論が出されたのだが、念には念を入れてという予防線である。
 幾分押さえた声でスクアーロはセオに話しかける。
「俺達が目的地に到着するまでの進路にある者を全員狙撃。扉を守ってる者も狙撃しろぉ。部屋内部の人間はラーダ」
 そう呼ばれ、髪の毛がふっと上下に動いて頷いた。小さな手がスクアーロの指先が指した部分に伸びて二度叩く。こつこつと音がした。小さな音であった。そうだぁ、とスクアーロはラヴィーナの行動に同意を示す。
「まずはてめぇが先鋒で突入し、雑魚を一層。奥の部屋には俺がいって標的を仕留める。手順に質問はねえなぁ」
「ない」
 こくんとまたスクアーロの隣、セオの向かい側、一番遠い所でラヴィーナは頷く。
 普段は足元まですっぽりと覆い隠している髪の毛は、今は上で結わえられて自由に動けるようになっていた。もっこりとした髪の毛はどうにも頭を重くさせているように見える。前にかかっている髪を真ん中で分けて後ろに回し、上で纏めているために、同様に普段は見えない黒い顔布がはっきりと見えた。そして、声を阻害する役割を持つそれは、いつものように足元まではなく、鼻の下あたりの短いものである。小さな口が見えた。こちらを見て、怖がるようにきゅっと引き絞られる。すすと移動し、スクアーロの陰に隠れた。
 そんな光景を眺めたスクアーロはラヴィーナの頭をがしと鷲掴み、セットを崩さぬように混ぜた。そして、フォロー(にもならないそれであったが)を取り敢えずセオに向ける。気にするな、と。今更気にするも何も、ここまであからさまであれば、もう傷つきようもない。セオはいいよと頷いた。
 セオは部屋から出、扉を閉めると最上階まで上がった。裏手の扉が開き、暗闇に紛れてスクアーロとラヴィーナが姿を現す。月の光がスクアーロが腕に装着している剣に跳ねた。しかしながら、本人もそれは自覚しているようで、光が当たる角度、飛ぶ方向を自然な動作で調節し、敵にばれないようにしている。
 相変わらず惚れ惚れするような腕であるとセオは思いつつ、背に負っていた銃を下に置き、自身も腹這いになった。コンクリートの冷たさが服の下の腹に当たり、体を冷やす。ボルトアクション式のそれに実包を込める。オートマチック式のそれも嫌いではないが、ボルトアクションに比べると如何せん精度が落ちるので、セオはどちらかと言えば、ボルトアクションの方を好んで使用した。尤も、ラヴィーナと一緒でさえなければ、前線に立つことが多く、このようなサポートに回ることなど滅多にないので使うことも殆どありはしない。ただ、日頃の訓練だけは欠かさず行っているので、腕が落ちているということはなかった。
 スコープを覗く。スクアーロの銀色が躍るその隣を淡い色の茶色が走っている。俺の妹か、とセオは頭の隅で思いながら、スコープ映像に確認できた敵に標準を合わせる。その間一秒にも満たず、セオはかちんと引き金を引いた。肩に痺れるような振動が走り、サプレッサーが標準装備されている銃はぱすっと短な音だけを立てた。音と同時に、物陰に潜んでいた敵の頭が飛び散った。空薬莢を取出し、新しい実包を装填する。先程スコープを覗いていたときに、端に移った人間に今度は標準を合わせて、また撃った。頭がまた吹き飛ぶ。ぐらと体が寄れて倒れた。男が立っていた壁には頭蓋、脳漿、血液がべっとりとついて、暗闇ではあまりわからないが、灰色の壁にカーテンのようにずると重力に任せて落ちて行く。排出、装填。その動作を繰り返す。スクアーロ、ラヴィーナに狙いをつけている相手方の狙撃者を発見し、スコープに狙いをつけて、撃つ。ぱすん。相手のスコープが割れ、弾丸は目玉を食いちぎって、そのまま後頭部へと抜けた。床には一面の赤い池ができていることだろう。
 歯で咥えていた実弾を装填しようとし、セオは腿のベルトホルダーに入っている自身の銃を即座に引き抜くと、そのまま後ろを見ることなく、引き金を引いた。あ、と短い声がして膝をつく音がした。ブーツのあたりに液体が広がる感触がふれる。それは隊服あたりにも這い上がり、じっとりゆっくりと肌に浸透した。しかし腹這いの姿勢は崩さない。頭を出せば狙い撃ち。雉も鳴かずば撃たれまい。ぱんぱんとセオは同じ動作を数度繰り返し、目的地への道上にいる妨害者を全て狙撃し終え、セオはこつんとイヤホンを叩き、スクアーロに連絡を入れる。上から見れば分かる光景だが、スクアーロたちは今も進んでいる。ただ、その歩みは少しばかり遅い。
「狙撃完了。進行方向に敵無し。門前の敵」
 引き金を引く。三回引けば、全ては事足りた。門上に取り付けられている監視カメラは、今頃本部にいるジャンがジャックし(別に冗談でもなんでもないのだけれど)ある程度同じ画像を繰り返し流しているに違いない。監視カメラの光景を眺めているものは、ただただ、過去の栄光を眺めるだけである。栄光ではないかもしれないが。
「排除」
 じとりと胸元まで違這い上がってきた。意外に、人が含有している血液量は多いものである。
 帰ったらシャワーを浴びようとセオはそんなことを考えた。肌にべたりと服がへばりつくさまは気持ちが悪い。防水要素もあるとはいえ、ぱちぱちはじくわけでもなし、数分も浸かっていれば、浸透してきてびしょ濡れにはなる。しようのない。開発部に一度これは文句を言った方がいいのではないだろうかとセオは思う。
 スクアーロが扉を蹴り開け、小さな茶色が飛び込む。何かが、震えたような気がした。スクアーロは余波を食らわぬよう、扉を開けた直後は即座に壁に身を隠した。スコープから見える光景は家屋の外だけであったが、べしゃ、とその窓に赤いものが飛び散った。血液だけではなく、引き千切られたような肉片でもあった。白い骨も覗いているように見える。脂肪、赤身、人の体も動物のそれと変わらない。もっと正しく言うのであれば、人も動物なのであるから、それは当然と言える。その肉片のカーテンの隙間から、スクアーロが中に続く扉を蹴り開け、そこから先は見えなくなったが、剣を振るい上げたことは間違いなかった。
 セオは静かにスコープ向こうの光景を眺める。血の隙間から覗けるラヴィーナは静かにそこに佇み、スクアーロの帰りを待っていた。
 どうしてラヴィーナは殺すのだろうかとセオは単純な考えを暇過ぎて考えた。ここにしか、居場所がないからだと父親の言葉を思い出す。ここにしか、しかしそれは否定できない事実だとセオは感じ取った。幾度かラヴィーナと任務を共にしたけれど、この光景を見る度に、彼女の口から発される破壊の音波が大気を震わせる度に、スコープ越しの生き物が弾け飛ぶ。細胞が沸騰したかのように、ぶくぶつと泡立ち、内包したそれを撒き散らす。綺麗な死に方、否、殺し方とは到底言えないであろう。けれども、そんな光景を目の当たりにしても、ラヴィーナはただただ何も言わず語らず、叫ばず泣かず、立つだけである。見慣れているのか、それとも耐性がついただけなのか、正しいところはわからないが、セオはその度に実感するのである。
 ラヴィーナは生物兵器である、と。
 妹ではあるが、同時に危険な生き物である。針鼠を抱きしめて血まみれになるようなものであろう。ライオンと共存するのであれば、ライオンに食い殺されてしまわぬよう、最低限の備えはしておかなくてはならない。母と父、他にもスクアーロ達と普通に暮らしている様を見ると、忘れそうになる事実でもある。
 視界の端で指先が動いた。どうやら、完全に殺し切れていなかったようだった。しかし、ラヴィーナの体が邪魔で撃てない。撃てばその小さな体も弾丸は丁寧に食いちぎっていくことだろう。だが、セオはそこでかちかちと考えた。ここで引き金を引き、ラヴィーナに怪我を負わせることと、敵がラヴィーナを殺してスクアーロの邪魔をしに行くこと、果たしてどちらを阻止するべきか、と。自然と、セオはスコープの標準をラヴィーナごと敵を撃ちぬく動作にした。腕の一本は落ちるかもしれない。しかし、ラヴィーナの武器は声であって、手ではない。腕ではない。
 これでは、ラヴィーナが怖がるわけである。
 怖がらない方がどうかしているとセオは思い直した。こんなにも冷静に妹を殺そうと、殺そうとしているわけではないが、邪魔であれば狙撃対象に含めている兄をどうして好きになれようか。近づこうと思おうか。思うはずなどありはしない。
 自嘲気味に口元に笑みを含ませ、セオは少しばかり銃口をずらした。スコープの中心からラヴィーナが外れる。狙うのは一瞬である。男が立ちあがった。ラヴィーナがそれに気づき、振り返る。口が開いているのかもしれない。声が発されるその一瞬手前、セオは引き金を引いた。音がし、男の頭は弾け飛ぶ前に吹き飛んだ。狙撃のために、ガラスは砕け散り、床にガラスが叩き落される。
 スクアーロが任務を終えたのか、がたがたと階段を上がり、どうした、とラヴィーナに声をかけた。淡い茶色の髪に血痕はない。吹き飛ばされた方向には大量の血液がべっしゃりと付いていた。セオの耳に男の声が届く。
『生きてたかぁ』
「でも、もう」
 殺した。
 そうか、とスクアーロから声が返ってくる。そして、任務終了だと終わりの言葉が響き、セオは周囲をもう一度確認してから体を持ち上げる。自分を狙撃するものは全て殺した後である。置いていた空薬莢をポシェットに詰めて、狙撃銃を肩に抱える。べっとりと腹が濡れてしまった服を見下ろし、一二度叩くが、当然血が落ちるはずもない。後ろに倒れていた男の死体を一瞥し、セオは下へと降りる階段への扉を開いた。かつん、と音が反響した。下に降りて暫くもすれば、ラヴィーナとスクアーロは帰ってくるだろう。
 反響する音を耳の中でさらにこだまさせながら、セオはスコープ向こうの光景を思い出す。ブーツはねちょりと粘り気を持った血の足跡を残した。そして考える。そこに、殺すという選択肢しかなかった理由を。
 スクアーロは強い。バッビーノも強い。しかし、しかしまだまだ自分は弱い。だから、そこに「助ける」という選択肢を出現させることができない。失敗は許されないからこそ、その選択肢は選択されないのである。選択肢として挙げられることすらない。もっと強くあれたなら、とセオは思う。もっと強くあれたならば、自分はラヴィーナを、自分の妹を助けるという選択肢を選択できるのだろうかと。
 半分くらいで立ち止まり、人の血液で汚れた己の姿を見下ろす。綺麗なものではない。
 止めていた足を動かし、また一段一段と螺旋状の階段を下りた。降り切った時には、既に銀色の髪と茶色の髪が下に揃っていた。裏手に停めていた車がぶるとエンジンを鳴らす。顔を覗かせ、スクアーロは後ろを指差した。セオは一度上を指差し、死体があることを告げる。それにスクアーロは分かったと確認の意思を示して、もう一度乗れと告げた。それにセオは大人しく従う。反対側には、ラヴィーナがいた。
 血塗れの姿を怖がってか、それとも兄の冷静すぎるほどに冷静な心を嗅ぎ取ったのか(元々人よりもずっと他者の感覚に敏感であるように思われる)ラヴィーナは、逃げるように後部座席の反対側に寄った。それを見たセオは、スクアーロと声をかける。
「助手席、乗ってもいい」
「途中でルッスーリアを拾うから、後ろに乗れぇ。銃は足元に置けよ」
 そう、とセオはスクアーロの返答に多少がっかりしながら、もう一度ラヴィーナへと視線を送る。隅に縮こまるようにして、ラヴィーナは座っていた。申し訳ない。一度入り、肩にかけていた銃を足元、椅子の下に押し込むとセオは革張りの椅子に座り扉を閉める。そして、ラヴィーナが寄る反対側に自分も身を寄せた。二人の間は広い。スクアーロはその二人の距離感をルームミラーでそれを見、小さく溜息をついた。
 誰も話さない(尤もラヴィーナは話す以前の問題である)空間の中で、セオは確かな居心地の悪さを感じた。そんなことは滅多にない。静寂も好める性質でもある己からすれば信じられないことであった。セオは気まずさに負けて、ぽつんと声をこぼした。ラヴィーナ、と遠くに座る妹に声をかける。びくりと髪の毛が震えた。結わえられていた髪は既に外され、足元まで覆い隠している。顔も見えない。けれども、動作はそれ以上に雄弁に彼女の感情を語った。
 その、とセオは言葉を選ぶ。
「強くなるから。強くなって、ラヴィーナを守れるようになるから。お兄ちゃんとして」
 殺さなくてもいいように。殺すという選択肢の他に、助けるという選択肢が自分の中で挙げられるように。
 呟いた言葉が果たしてラヴィーナに届いていたのかどうかは分からなかった。セオはああ駄目だと、俯き、冷たい窓ガラスに側頭部を預ける。車が動く度、ごんごんと定期的に頭部はガラスにぶつかって音を立てた。
 ふとその200°程ある視野の中に、茶色の物体が動いた。セオは外を向いていた目を内側に向け、距離を縮めた髪の毛の塊を凝視する。先程まで逃げていたのに。ぽつん、と雨が窓ガラスを叩いた。ぺ、とラヴィーナはまだ生乾きのセオの服に手を付けた。真っ赤に染まる。そして、そのままその指先をセオの側にある窓ガラスに付けた。赤い指先は、まるでどこぞのホラー映画のように文字をかたどっていく。小さなもう片方の手は、少年の膝の上に乗せられていた。体重がかかっている。
 きゅぅきゅうと文字が描かれる。今日はクロッキー帳を持ってきていないんだな、とセオはそんなことを思った。
 赤い血の文字が、窓ガラスに最後まで描かれた。膝の上から重みが退き、すとんと少し離れた場所で髪の毛の塊はその姿を落ち着けた。逃げようとする意思は見られない。ガラスには、pauraとイタリア語で描かれている。日本語にすれば、恐れや恐怖という意味である。そんなことは知ってるよ、とセオは思い、項垂れかけたが、ラヴィーナの指先の動きに視線を止めた。
 指の動きは、セオが想定していたものとは違った。逆であった。髪の毛の隙間からにょっと飛び出た腕は、まず最初にセオを指差し、そして窓ガラスの文字を経由して、髪の毛の塊を指差す。えぇと、とセオはラヴィーナのパントマイムならぬボディランゲージを訳そうと努めた。
「俺、怖い、ラヴィーナ?」
 こくんと髪の毛の丸い部分が上下に振られた。
「怖くないよ」
 一度やられた恐怖というものは、どこかにたたき込まれていたのだろうとセオは思う。人よりもずっと動物に近い生き方をしてきた目の前の妹は、そういった恐れに反応して逃げ回ったに違いない。悪いことをしたと反省する。
 ごめん、と一つ謝れば、髪の毛はまるで扇風機のようにぶるぶると震えて否定する。違うのかと、セオは理解不可能な生き物を目の前にして首を傾げた。
「俺は、ラヴィーナのこと怖くないよ」
 そう言って頭をなでようと手を伸ばせば、さっとそこから逃げるように後退された。さっきまでの距離は一体どこへ行ったのかとセオは頭を悩ませる。うん、とうなったセオだったが、これ以上の距離を縮めるのは難しそうなので手早く諦めた。しつこいのは嫌われる。
 ゆっくりでいいじゃないかと、ちらとまた椅子の端っこに戻ってしまったラヴィーナを横目で見て、セオは軽い溜息をつき、そしてルッスーリアの姿を目に止め、スクアーロと声をかけた。

 

 つまり、とXANXUSは目の前に置かれたコーヒーカップを手に取り口につけ、再度机に戻した。その隣で、東眞は編み物をしている。すいすいと棒が慣れた手つきで動いてレースを作っていく。暇人ここに極まれりといった趣味の延長は随分とその身についていた。
「一番厄介なのは制御できねぇ力だ」
「制御できない、ですか」
 XANXUSはコーヒーをもう半分飲み、その中身を揺らす。カップの中には黒い液体が入っているが、それに映し出されているのは部屋の天井であってそれ以上でもそれ以下でもない。今頃、スクアーロに連れられて任務に出向いている子供二人を頭の中に思い描いてXANXUSはそうだと頷いた。
「制御できてねぇ力なんざ、ただの暴力と変わらねぇ。暴走すりゃ、それは脅威であり、兇器だ。セオはまだ使い方を知っている。もっと言えば、使い方を知って初めてその力を行使しているから、問題がねぇんだ」
 餓鬼、とは呼ばず、息子の名前を正しく呼び、XANXUSはカップの中身を最後まで飲み干した。あっちは、とそして続ける。
「使い方を知らねぇ。力の塊だ。なまじっか意識があるから余計に厄介な生物だ」
 兵器とは確かにふさわしい呼称であるとXANXUSはそう素直に思った。しかし、一番厄介なところは、あの髪の毛の塊が、己の力が何たるかを知っているところにある。自分を守るためならばあらゆる場面でそれを行使するであろう。ただ、その「守る」の程度が問題なのである。驚いただけ、脅かしただけ、そう言った冗談の類も全て間に受けて、殺しを始めてはたまらない。
 XANXUSは東眞が編んでいるレースに指先をふれさせて、意外に細かく編み込まれているそれをよく見た。そんな男に、東眞はですが、と話しかけた。
「あの子は同時にそれがどういう危害を及ぼすか、おそらく知っています」
「…」
 何、と言葉には示さず、視線だけで片眉を吊り上げ、XANXUSは東眞を見る。編み棒を膝の上に置いて、東眞ははいと頷いた。
「セオに近づかないのはそのせいでしょう。私は基本的に害がないと判断しているのでしょうが、セオは以前の一件もあります。それに、XANXUSさんやスクアーロのように、攻撃をされても防御できるだけの力もまだない。あの子は、それを見極めています。だからこそ、セオには近づきませんし、逃げ回っているんでしょう」
 とある拍子に殺しかねない存在であるということだろうかとXANXUSは東眞の言葉をそう受け止めた。
 成程と納得する。確かに、セオはVARIA内部においては、まだまだであり、そこそこのレベルでしかない。それが、あの毛玉の音波の攻撃を防げるか否かを問われた場合は、否である。はじけ飛んでTHE ENDに違いない。
 仲良くなるのはと東眞の視線が窓の外へと移る。車が一台停まり、後部座席の右側と左側、運転席と助手席の二人よりも小さな影が両側から姿を現す。それが答えであった。
「まだまだ、先のようです」
 妻が覗いた窓を後ろから覗き見、多少距離は縮まったものの、相変わらずセオの傍には寄ろうともしないラヴィーナの姿を認め、XANXUSは軽く鼻を鳴らした。