41:兄として - 2/5

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 東眞は苦笑した。窓から覗いた光景はとても面白いことになっている。それを隣から眺めたXANXUSは酷く億劫そうに瞼を閉じた。背を凭れさせているソファに流れる黒い隊服にはもっこりと一つの山ができていた。もそ、もそと中に動物、詰まるところは生物がいるかのように動くそれ。隊服の端からは淡い茶色の髪の毛が覗いていた。
 慣れていますねぇ、と東眞はまるで他人事のように、実際他人事ではあるのだが、笑って、ラヴィーナが隊服の下に潜り込んでいる様子を眺める。XANXUSは軽く溜息をつき、言葉を発するのも面倒臭いとばかりに額に手を添えた。それだけで十分に彼の考えは読み取れる。苦笑をこぼしつつ、東眞は構わないじゃないですかと言葉を続けた。
「セオには少しも懐いていないんですよ?」
「自業自得だ。知ったことか」
 おまけにくだらねぇと吐き捨てて、XANXUSはもこもこと未だ揺れている隊服を視界から外す。もそと小さな両手が隊服から伸びて東眞の方へと差し出された。それに東眞ははいはいと喜びで目を細めながら、両脇を取るとその小さな体をひょいと隊服から持ち上げた。ようやく、隊服から髪の毛の塊から消える。どこからどう見ても髪の毛の塊にしか見えないラヴィーナにXANXUSは軽く眉間に皺を寄せた。皮膚が寄って谷と山ができる。肝心の毛玉と言えば、抱きあげられたことに大層嬉しそうに髪の毛を揺らし、両手でしっかりと東眞の服を掴んでいる。
 任務に同行させることもあるが、正直な話、かなり戦闘能力が高い。確かに動き自体は鍛えなければタイマンでの戦闘においては使えないだろうが、前方に居る敵を一掃させる時においては使える。大人数に対する攻撃が最も得意とされる攻撃方法である。おそらく推測ではあるが、XANXUSは考える。今、女の腕に抱えられている生物兵器はそれこそ、大量虐殺において最も効力を持つ。この目で見たのだから間違いはない。あれの声は前方、直接的に音波を浴びたものにしか作用しないという欠点が存在するため、その後ろに控えていれば問題はない。そして人体を直接破壊するだけの能力を持つ音波、というよりも衝撃派に近いだろうか、声と音とは実際関連性を持たないことが判明した。つまり、声=音波ではない。ただ、音波だけを出すというのは非常に難しい行動らしく、音と音波を同一のものとして発生させることしか、今の彼女にはできない。訓練さえ積めばできるようにはなるだろうと言うのが、検査結果の総意である。
 尤も、訓練したところで100%と絶対の確実性無いのだろうが。女の腕の中の生物は一生その声と生きて行くこととなる。喋られないことは無いだろうが、万が一を恐れるならば、人との会話とは無関係の日々を送らなくてはならないことだろう。攻撃性を有する声ならば尚更である。
 こうやって、とXANXUSは淡い色をした髪の毛の塊に再度視線を送る。
 小さな手、小さな体、軽い体重、溢れんばかりの好奇心、物怖じしない態度(否、微妙なところではある)それらはまるで幼い日のセオのようである。今ではその当時と比べると随分成長して重たくも大きくもなったが、好奇心の強さと物怖じしない態度は変わらないと言えよう。否、物怖じしない、というよりも恐らくそれは、適応力の高さと言った方が正しいのかもしれない。無論言うまでもなく、この髪の毛の塊は(ラーダと名付けたものの滅多に呼びはしない)その小さな外見も周囲に溶け込むのを手伝っていると言っても過言ではない。
 肺胞からすらも酸素と二酸化炭素を吐きだして、XANXUSは東眞の隣に寄って窓の外を眺めた。眼下では、黒髪の、外見だけは自分によく似た、その表情の豊かさは全く自分に似てはいないのだが、少年が鮮やかな髪の色をした男に、ルッスーリアに話しかけていた。体を軽く動かしていたのか、その肌にはうっすらと汗が浮かんでいる。そしてセオの後ろには大柄の髭が目立つ男、レヴィ・ア・タンが添っている。
「何してんだ」
 そう問うたXANXUSに東眞は聞いていないんですか、と少しばかりの驚きを混ぜた表情をそちらに向けた。聞いているはずもなく、XANXUSは聞いてねぇ、と僅かに乱暴さを混ぜた返事をする。小さな両手が髪の端に結わえてある羽根飾りに伸びて軽く引っ張る。鬱陶しく感じたその手を軽く払って睨みつければ、両手はまるでゴーストのように消えてしまった。
 下方から柔らかな声が響く。セオ、と言う単語に髪の毛の塊がわさと揺れた。
「さっきスクアーロと会ったんですけどね。どうやら、ラヴィーナと仲良くなる方法を模索しているらしくて」
「まどろっこしい。とっとと会いにくりゃいいだけの話じゃねぇか。カスが」
 くだらねえ、と一言吐き捨ててXANXUSは窓に背を向けて体重を乗せる。そんなXANXUSに笑いながら、東眞はそんなことはないと窓の外でルッスーリアに助言を請いつつ、メモ帳にペンを走らせている少年を柔らかな視線で見つめた。
 最近は「母」である彼女しか見ていないな、とXANXUSはラヴィーナを抱いている東眞を横目で見た。
「いいじゃないですか。セオなりに一生懸命頑張ってるんですよ。…これまで、色々ありましたからね」
「…」
 女の瞳が僅かに伏せり、軽く眉間に皺が寄せられる。一体それが何を指し示しているのか、XANXUSは視界から東眞の姿を外してから頭の中から記憶を引きずり出す。
 怯えた少年の瞳。引かれた引き金。高い音。そして、泣くことを止めた、我が子。
 ぽつん、とXANXUSは言葉を滑らせる。
「泣かなくなったか」
「冗談とか、楽しいとか、そう言う意味では、涙目になったりしますけどね。あの子は、もう泣かないんでしょう。あの男の子の事以外では」
 引き金を引かせたことを後悔はしていなかった。
 XANXUSは視線を再度窓の外に向ける。いつものように明るい顔で笑い、落ち込んだりはしゃいだり、色々と忙しい我が子であるが、任務の時は、というよりもVARIAとしての少年の顔はすでに凍りついている。感情が削げ落ち、ボンゴレのための武器の一端でしかない。そう仕込み、そう育てたのは自分であるが。
 ”Si, mio capo”とその声を聞くたびに、少年ではなく、既にVARIAの一員であることを認識する。めきめきと力をつけて行く様はいっそ恐ろしくもある。指輪の炎の使い方も分かってきており、最近では匣兵器も手懐けた様子で平隊員並の力量であると見ていい。当て身などの体術関連は身長体重関連もあり、未だ他に比べると劣っていると言わざるを得ないが、小柄ながらの身のこなしは流石であると言える。一撃一撃は軽くとも、急所を突きさえすれば問題もない。
 ふとXANXUSは自身の掌に今度は目を落とす。意識を集中させれば、そこにはこう、とした光球が発生した。憤怒の炎と呼ばれる死ぬ気の炎の亜種である。これを自分が発生させられたのは全くもって偶然であり、セオにこれが継承されるかどうかは甚だ不明である。尤も、こんな死ぬ気の炎なぞ無くとも戦闘においての不利有利の天秤は動くはずもない。戦闘に置いてそれを分けるのは、本人の覚悟と、そして戦闘能力である。例えば頭を撃ち抜く銃があるとして、それが当たらなければいくら攻撃力が高くとも無意味であるし、反対に攻撃力が低くとも確実性があれば人は簡単に殺せる。人を殺すなど、簡単なことなのだ。失血死、ショック死、骨折、兎も角人は簡単に死ぬ。
 簡単に。
 引き金を、一つ、引けば。
 簡単に。
「XANXUSさん?」
「…何でもねぇ」
 掛けられた声に、XANXUSは一拍置いて返事をした。
「ロニー・テスでしたか」
「それがどうした」
「寝言で」
 よく聞くんですよ、と東眞はラヴィーナをその腕に抱えたまま、瞼を伏せた。
「夢で見るんでしょうね」
「それが、あいつの仕出かしたことだ」
「ええ、知っています。あの子が犯したことです。認識が甘かった故に起こした出来事です。後悔し続け、赦されない。泣かないのはきっと、赦されたくないからでしょう」
 ただ、と短く続いた言葉にXANXUSは赤い目を細めて向けた。黒髪が流れて落ちている。大きく結わえているそれは、淡い茶色と混ざってしまっていた。
「一人で泣かれるのは、辛いものがありますね。親として。でも、子は親から離れて行くものですし、仕方ないと言えばそうでしょう。いつかあの子が泣ける場所ができればいいんですけれど。それから……信頼できる、友達も」
 友達。
 XANXUSはその言葉にぴくりと微かに眉を動かした。東眞の言葉はまだ続く。
「学校の話はするんですけど、クラスメートの話とか、そいうのは全く聞かないんですよ。一つも口にしない。あの年頃なら、友達の一人や二人できないこともないでしょう。同じ過ちを犯すことを怖がって、人間関係を狭めて欲しくはないんですが…」
「心配することじゃねぇ」
 はっきりと飛び出た言葉に東眞は視線を動かす。赤い瞳は窓ガラスの向こうで両手を上げているセオに向いていた。
 あの餓鬼は、とXANXUSは少年の成長過程を振り返りながら会話を紡ぐ。
「俺たちが心配しなくても、あいつは勝手にでかくなる。もう、方向を指し示さなくてもてめぇの足で歩いていける。迷った時に困った時に頼りたい時に、てめぇがそこに居りゃいいだろうが」
 紡ぎだされた、しかし言葉遣いだけは乱暴に、XANXUSの言葉は東眞の耳に届く。
 子供の成長は早い。あっという間もなく、勝手に大きくなる。大きくなって、手からするりと消えて行く。好奇心も悲壮感も全てひっくるめて、勝手に大きくなって行くのだ。
「心配するのは親の特権ですかねぇ。ラヴィーナも大きくなってしまうんですね」
 冗談交じりに言った言葉に小さな両手が動いて東眞の頬を軽く叩いた。それに東眞は嬉しげに表情を温かくした。頬の筋肉が柔らかに弛緩する。XANXUSはその光景を横目で見つつ、それを嫌だと思っていない己を腹の内で小さく笑った。
 肩を震わせた男に東眞はどうしましたかと声をかける。
「何でもねぇ」
 随分と自分も丸くなってしまったものだ、とXANXUSは口上にすることはなく、ただそう思ったことを胸の中で押し潰した。

 

 セオはふむふむと頷きながらメモ帳に文字を連ねて行く。ルッスーリアの言葉は大層参考になるものばかりで、メモ帳はあっという間に真黒になって次のページへと進む。
 そんなセオの必死な様子を眺めながら、ルッスーリアは軽くかいた汗をタオルで拭き取り、困ったように眉尻を軽く下げる。
「でもねぇ、Jr?こんなことを聞くよりも本人に会った方が良くない?ほら、スキンシップは最大の何とやら、よ」
「最大の前に最高の逃亡路線だよ、ルッスーリア…」
 ううとセオは軽く呻いて溜息をついた。その溜息の深さと言ったらない。ルッスーリアは落ち込まないの、と軽くセオの肩を叩いたが落ち込んだ少年を浮上させるには少しばかり足りない様子である。ちらと背後に立つレヴィに視線を向けたは良いも、彼もまたどうして励ましたらいいのか見当もついていない様子で、おろおろとうろたえてしまっている。
 仕方ない、とルッスーリアは両腰に手を添えて、肩を軽く落とす。
「逃げられててもきちんと当たっていかなきゃ。何かで釣るとか、誘き寄せるとか、どうしてそんな姑息な方向に走っちゃうの。真正面からきちんとぶつかって、Jrのことちゃんと分かってもらいなさいな。それが一番よ?」
「それができたら苦労しないよ。何しろ、ラヴィーナは俺を見た瞬間に…いや、ここ最近はもっと酷いかな…足音が聞こえたら逃げられてる気がする。角曲がったらもう既にいないし…何と言うかな…もうこれ、嫌われてる通り越して、生理的に無理ってこと!?」
「落ち着きなさいな」
 全くもうと軽く溜息をつき、ルッスーリアは青褪めたセオの頭を軽く叩く。そして、汗を拭き終わったタオルを首にかけ、セオと視線を合わせるために膝を折った。銀朱の瞳はどこか心配で不安げに覗いている。
 大丈夫、とルッスーリアは微笑む。
「ああいう子はね、本当に嫌いなら攻撃仕掛けてるわ。きっとね、嫌いじゃなくて怖いだけなのよ。殴っちゃったんでしょ?」
「それと…あー…撃ち殺そうとした、かな」
「…それは…また、壮絶ねぇ…一生忘れられないファーストコンタクトだわ…」
 苦手になる理由も分からないわけではない。
 ルッスーリアはうんと頷き、少しばかり言葉を失くす。その間に、セオはでもねと会話を繋げた。
「マンマとバッビーノってもっと壮絶な出会いだったんでしょ?」
「壮絶?だったかしら?」
 あまりそう言う印象は無かったけれど、とルッスーリアは軽く顎を擦る。
「誰に聞いたの?」
「スクアーロ。前に言ってたんだ。マンマとバッビーノはえーと、そうそう波乱万丈?な関係だったんだぞぉ!って」
 わざわざ話し方まで真似たセオにルッスーリアは思わず声をあげて笑う。後ろに控えていたレヴィもその話し方には多少表情を変えて口元を緩めた。違うの?とセオは笑った二人に問い正すが、ルッスーリアは眼鏡を指先でほんの少し、目は見えない程度に持ち上げると、その眦を指先で拭った。
 セオはそんなルッスーリアを見上げながら、首を軽く傾げる。
「バッビーノはマンマが居なくて不貞腐れてた時期もあったって言ってたよ。それから、携帯のメールと小一時間睨み合ってたのは爆笑ものだったって。えーとね、後は…あ、そうそう、初めて会った時ケーキ作ったっていうのも聞いた!最近バッビーノは食べてばっかりで作ってないけど」
「それそのままボスに話してあげなさい、Jr!あーぁ、スクアーロが真青になる顔が目に浮かぶわ…」
 笑いが止まらないとばかりにルッスーリアは腹を押さえ、レヴィは額に青筋を浮かべてスクアーロの奴めが…とぎりぎりと歯軋りをしていた。二人がどうしてそういう態度を取るのか、セオは良く分からずにどうしたのと、その服を引っ張って回答を求めるが、二人揃って返事はない。
 セオはむすっと頬を膨らませて唇を尖らせた。
「何だい、けち。教えてくれたっていいじゃん。スクアーロは沢山…?教えて…くれた、よ?」
 段々と自信を失いながら、セオは反論を試みるが、振り返ってみればそう沢山のことは教えてくれないような気がして仕方が無いので、最終的には尻すぼみになる。
「多分!」
 その一言だけは強気にセオは言い切った。それにルッスーリアはさらに笑う。しまいにはレヴィは大層微笑ましい視線をセオの背中に向けていた。当初の目的と全く異なるものになっているが、そこは大した問題では無いらしく、セオは切り替わった話に好奇心を移動させた。取っていたメモ帳とボールペンをポケットに突っ込むと、ルッスーリアに飛びかかる。いい加減に、誰かのためにと一生懸命頭を働かすのは疲れた模様である。
 ルッスーリアは飛びかかってきたセオを両手で抱きとめてくるくると持ち上げて回した。まだまだ軽い体重は簡単に宙に持ち上げられる。わぁ!とセオはきらきらと銀朱をきらめかせて楽しげに笑う。
「そら、レヴィ!行くわよ!」
「ぬ?な、何!ま、待て!待てルッスーリア!貴様まさか…セオ様をぉおおお!!ぬぉおおお!!」
 想像通り、見事に宙を舞ったセオの体にレヴィはさっと青褪める。青を通り越し、白になった顔色で慌てて両手を差し伸べた。その両腕の中に、セオはくると宙で回転して飛び込む。どん、と全体重をかけて飛び込んでもレヴィのしっかりとした体は揺らぐことを一切しない。笑って飛び込んだセオにレヴィはほっと一息ついた。
 セオ様、と安堵の声にセオはからからと笑って、ごめんと笑って謝る。反省の色は一切見られないのでレヴィは深い溜息をついた。セオはレヴィの腕を支点にしてくると回転するとその肩にすとんと尻を落とし、肩車をしてもらう。
「レヴィ高い!」
「セ、セオ様にお褒め頂けるとは…!」
 ぐ、と泣きそうになったレヴィにセオは慌てて、泣かないで!とその顔を覗き込む。そんなレヴィにルッスーリアは笑って首のタオルを押し付けて、もうと口端を持ち上げた。セオはルッスーリアからそのタオルを受け取ると、レヴィの顔に押し付けて、上から溢れそうになった感涙を拭い取る。
 そう言えばとセオは顔を持ち上げて、レヴィの肩に乗ったままで話を元に戻した。
「マンマとバッビーノって波乱万丈だって、どの辺が?」
 セオの質問にレヴィとルッスーリアは多少気まずそうに視線を交わす。言っていいのか悪いのか、そのあたりの判断を探っている様子であった。迂闊なことを言えばスクアーロの二の舞である。
 そうねぇ、とルッスーリアは当たり障りのない点を探す。
「色々あったわよ?本当に。Jrが産まれてくる前なんて…ねぇ?」
「…うむ、凄かったな」
 同意を求められて、咄嗟に賛同の意を込めて頷く。
「そうなの?どんなところが?」
「…それこそ東眞やボスに聞いたらどう?」
 ルッスーリアの言葉にセオは眉間に軽く皺を寄せて大層困った顔をした。ううんと頭の上で唸られて、レヴィはどうされましたかと心配そうに尋ねる。セオはレヴィのセットされた髪の毛の中にぽすんと顔を埋めた。頬をぷくと膨らます。
 だって、とセオは溜息をつく。
「バッビーノに教えてって言ったら、怒るんだ。マンマも笑って誤魔化すし」
「恥ずかしいのかしらね?本当に何かの物語みたいな感じだったもの。今思い出しても結構なものだったわよー?結婚に漕ぎつけるまでも凄かったわ。もう本当に。Jrが二人の話なんて聞いたら驚くなんてものじゃないわよ」
「…そんなに?」
 そんなになの、とセオは僅かに顔色を悪くしながら表情を暗くする。それに、ルッスーリアは悪い意味じゃないのよ、と軽く手を振ってその不安を取り除いた。
「でもどうしてマンマとバッビーノは俺に話してくれないんだろ。そんなに恥ずかしがること無いのに。だって、今の二人のやりとりの方がずっと恥ずかしいと思わない?」
 セオは、ほら考えてごらんよとレヴィの肩の上で小さな溜息をつく。
「だってさ、バッビーノって気付いたらいつもマンマと一緒だし、マンマをずっと占領してるし、俺がマンママンマ!って言うと不機嫌になるし、俺の前でも平気な顔してベッドインだよ?ね、そっちの方が恥ずかしいよね?」
 返す言葉を失った二人は、ごほんと軽く咳をして場を誤魔化す。
「まぁ、夫婦の営みも大事よ…ね?ほら、ボスも忙しいんだし」
「子供の前で?」
「…ボ、ボスも男ですし…セオ様…」
「追い出されてスクアーロの部屋行ったんだよ?俺、マンマに本読んでてもらったのに!」
 ぶすーっとセオは頬をめい一杯に膨らませて不満をぶちまける。しかし、すぐに口先を尖らせるだけになり、そして分かってるんだけどねと呟く。とすんと頭の上に乗った重みが増したのにレヴィは気付いた。俯いた顔が髪の毛に埋もれている。
 レヴィとルッスーリアは双方黙って、セオの言葉を待つ。
「バッビーノとマンマが仲いいのは、いいんだよ。俺も嬉しいし。でも、昔話くらいしてくれたっていいんじゃないかな…?だって、あのバッビーノがマンマと結婚したんだよ?そこらへんの本よりも絶対凄く面白いって!」
「…面白いとは思うわよ。それは、もう」
 笑い話では済まない話も多少どころではなく含まれそうではあるが。
 くすとルッスーリアは笑って、レヴィを軽く小突く。
「そうそう、レヴィとも色々あったのよ?」
「レヴィとも?」
「そうよー。レヴィはボス大好きじゃない!東眞とも当然一波乱あったわけよ。ほら、レヴィ、話してあげなさいな」
「な、何故…!」
「レヴィレヴィ!話して!!ねぇ、マンマと何があったの?マンマってどんな人だった?バッビーノは?」
 子供の好奇心は留まるところを知らない。レヴィはううん、と深く唸って溜息を一つ吐き、肩の上で騒ぐセオに小さく笑って、口を開いて懐かしい記憶を探りながら一つ一つ言葉を紡ぎだした。
 そして、妹の好きなものを探すことに疲れた兄はその話に耳を傾けた。