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珍しいこともあるものだ。
エミリーは、月の河公園でジェットコースターに乗って遊んでいるジョセフとサバイバーの姿を眺めながら、暗号機の解読を一人進めていた。エミリーも一緒に遊ぼうとエマに手を引かれたものの、暗号機の解読が進まなければ荘園に帰ることはできない。
一人せっせと暗号機を回す。最後の暗号機の解読が終わり、通電の音が大きく響く。
流石に一人で全部の暗号機を回すには時間がかかったと、額に浮かんだ汗を手の甲で拭う。すぐに皆が帰れるよう、ゲートもついでに開けておくことにして、エミリーはゲートキーを押していく。そうこうするうちに、後ろにあった乗り場にジェットコースターが到着する。
「エミリー!」
ジェットコースターからエマ達が下りてくると同時にゲートが開いた。
エミリーは胸に飛び込んできたエマを抱きしめ、きらきらとした顔を受け止める。
「ジョゼフさんと沢山遊んだの!写真も撮ってくれたの!」
「それは、よかったわ」
ふ、とエミリーはジョゼフの方へと顔を向け、一瞬体を強張らせる。
目に炎が揺らめき、たなびいている。引き留めるの人格が発動している。
通電して間もなく、まだその灯が消えることはない。ひゅ、と一瞬息を詰めかけるが、すでにゲートが開いた状態であれば、今から一人ずつ倒したところで、勝ちはほぼ確定しているようなものである。いざとなればエマだけを逃すことも視野に入れる。
ひび割れた顔が穏やかに笑う。
「満足してくれたかい。たまには悪くないね」
ゲート前にいるエミリーにジョゼフが近付く。
ハンター特有の威圧感にエミリーは一歩後ずさる。警戒を解かないエミリーにジョゼフは軽く肩を竦めて見せた。
そして、くるりとエマたちの方へと振り返り、指先を揃えてゲートへと誘う。
「さあ、もう良い子は帰る時間だ」
「はーい!ありがとうなの!」
ひらひらと小さな手を大きく振りながら、遊園地で思う存分遊びつくした面々がゲートから荘園へと帰っていく。エミリーも安堵と共に一つ息をこぼして、ゲートへと歩いて向かう。
その背中に声が掛けられた。
エミリー。
「なに、ジョゼ」
視界に揺らめいたのは、赤色。
エミリーは自身に剣が振るわれたのを知った。まだ、引き留めるの効果は続いている。膝から崩れ落ち、地面に倒れ伏す。
突然の行動に理解が及ばず、堪え切れない痛みに視界が点滅する。優鬼をした上で、三人を逃がし、負けが確定した状態で今更一人吊ったところで何の意味も持たない。
取り敢えず境界へとエミリーは這いずりながら前へと進もうとしたが、体は風船に吊られ、公園内を歩く。意図がつかめない。
ジョゼフはエミリーをゲートから一番近い写真機の前へ落とし、写真機を作動させ、その姿を写真世界へと溶かした。
まったくもってその行動が理解できず、エミリーは必死にゲートまで這いずって向かう。失血死も椅子に座らされて飛ばされるのもごめんである。這っていけば、距離としては、失血死寸前ぎりぎり間に合う。
また何かの検証でもしているのだろうかと思い直し、ゲートの境界を越え、エミリーは荘園へと戻った。
「エミリー、虫に噛まれてるの」
「あら、本当」
月の河公園で遊び倒したエマと暗号機を一人で回し切り、汗をかいたエミリーは二人で一緒に大浴場でその汚れを落としていた。
エマに二の腕の内側を指差され、エミリーは首をわずかに傾げたが、うっすらと赤くなっていたのは分かるが、肝心の患部はよく見えない。
けれども、痛みもなければ痒みもないので、大したことはないだろうとエミリーは判断する。
「変なところを噛まれたわね。後で虫刺されの薬を塗っておかなくちゃ」
「背中も沢山噛まれてるなの」
「ええ?やだダニかしら。布団を干したほうがよさそう」
「エマ、手伝うの!」
「ありがとう、エマ」
風呂を上がり、さっぱりした体を柔らかな布で拭きつつ、エミリーは元気いっぱいの笑顔を浮かべたエマに笑みを返す。
朝一のゲームであったため、まだ午前十時も回っていない。
外は快晴で風通しも良い。布団を干すにはうってつけの日である。折角風呂に入ったが、今日は掃除の日にすることにエミリーは決める。そう何度も虫に噛まれる趣味はない。根本から解決しなければ、また噛まれてしまう。
本日の方針が決まり、エミリーはそうと決まればとばかりに髪を手早く乾かし、袖に腕を通した。
やり始めれば、思いの外やり込んでしまい、長引いた掃除だったが、部屋はここに来た時以上に綺麗になった気がすると、エミリーはどっと疲れた体を椅子に預けた。医学書を押し込んでいた本棚も丁寧に拭き、埃一つない。
吸いこんだ空気は、いつもよりもずっと清浄なものに感じた。
エマの想像以上の体力にとても助けられ、無事に掃除を終えられたようなものであった。
晩御飯は疲労のためにあまり喉を通らず、エミリーは仕方なく、ちょっとした軽食で済ませた。
このままベッドに突っ伏したところで、小言を言う人はいなかったが、エミリーはいつもの習慣として、応急セットの中身の確認を行い、不足している医薬品や包帯等を補充する。
全ての作業を終え、大きく伸びをするとベッドへと倒れ込む。
暖かな日に干した布団はよい香りがした。全身から力が抜け、ベッドに包まれる。
「エミリー」
「ひ」
リラックスし、一切の警戒していなかったエミリーは突如横からかけられた声に跳ね起き、ベッドから距離を取る。
先程エミリーが転がっていた場所に、傘からずるりと雨粒と共に謝必安が姿を現す。
こんばんは、と穏やかな笑顔が向けられた。すでに寝間着で来ている時点で、彼に帰る予定がないのは一目瞭然である。
「前触れなく声をかけないでちょうだい。心臓が飛び出るところだったわ」
「今日は、中国茶を持ってきたんです」
「あら」
柔らかな良い香りが鼻をくすぐる。
ほっと落ち着く香りにエミリーは、いそいそと小さなテーブルを持ち出し、そこに謝必安から預かっていた茶器を乗せる。
流れるような手つきで謝必安は茶を入れると、エミリーへと差し出す。
エミリーは一言礼を言って、受け取った茶を飲む。ほっと体が内側から温まる。
「おいしい」
「そうでしょう。無咎が好きなんです」
「…彼、お茶を淹れるの?」
「そうは見えませんか?」
おずおずと尋ねたエミリーに謝必安は茶に口を付けながら、くすりと小さく笑う。
対戦時の、或いは普段の行動からすれば、茶を入れる姿はどうにも想像ができず、エミリーは口をへの字に曲げる。言わずとも、その表情で悟ったのか、謝必安は自分で淹れた茶をゆっくりと味わいながら、ぽつりとぼやく。
「無咎が淹れたお茶は、もっと味が深くておいしいんです。粗雑な振る舞いも多いですが、ああ見えてなんでも器用にこなすんですよ。彼は」
「機会があったら、彼が淹れたお茶も飲んでみたいわ」
「是非。ああ、茶うけもあるんです」
「寝る前に」
「いいじゃありませんか。どうぞ」
なにやら悪いことをしている気持ちが背中をくすぐりつつ、エミリーは一つ礼を述べて、差し出された菓子を頬張った。甘くて、ほっと息をつく。
軽食ではやはり足りなかったようで、摂取された甘味はじわりとエミリーの体を動かす力となる。
ああそうだと謝必安は傘を広げる。
「無咎にも私が淹れたお茶を飲んでもらいましょう」
「酷評されたら、後から教えてあげるわ」
エミリーの言葉に、ふふ、と謝必安は目を細めて笑った。
傘からもう一つの魂が姿を現す。
そして、自身の前へと置かれた茶と菓子をぽんぽんと口に放り込み、茶はあっという間に飲んでしまった。ぺろりと唇を舌が舐め上げる。
酷評どころか、感想もない。
エミリーと范無咎の目がかちあう。その瞬間、范無咎は怪訝そうに眉根を上げる。
「何の臭いだ」
すん、と形の良い鼻が動く。
范無咎の言う匂いは少なくとも、謝必安が準備していた茶と菓子のことではないのは明らかである。
エミリーは、ああと彼自身が座っているベッドを見て答える。
「今日布団を干したの。おひさまの匂いよ。部屋も隅から隅まで掃除して、風通しも良くしたら、そのせいかも」
「違う」
出された意見を即座に否定し、范無咎はその元を探すようにすんすんと鼻を動かす。そして突如、エミリーの右腕を掴むと、二の腕に鼻を近付けた。突然の行動に、エミリーは慌てて范無咎を引きはがそうとするが、びくともしない。
医生、と低い声が顔の下でこもるように響く。
「何をされた」
「何って、何が。今日?今日はさっき言った通り、エマと一緒に掃除をしただけよ」
「それだけか」
「後は、いつも通り、ゲームが午前中に一回あったくらいしか」
エミリーの返答に、范無咎は掴んでいた腕を離し、くるりと向い合せになっていたエミリーを反対にし、背中を向けさせる。こつりと、その背中に范無咎の額が当たる。すん、と再度鼻がなる。
行動の意味が分からずに、エミリーは范無咎、と名前を呼んでみるものの、返事はない。
ぐい、と乱暴に襟首が引かれ、一瞬息が止まる。
「何をするの!」
「もういい。分かった」
寝間着姿で范無咎はすっくとベッドから腰を上げる。居座るつもりで来たのではなかったのかと、エミリーは范無咎を見るが、変わらず回答はない。
范無咎は傘を開き、エミリーを見る。
「必安に伝えろ」
「え」
「よく見ろ、とな」
「ちょっと」
ざぱりと開かれた傘に范無咎の魂は一度溶け流され、白い髪の謝必安が姿を現す。
期待に満ちた目がきらきらと子供の様に輝き、エミリーに向けられる。
「どうでした?無咎はなんと?」
「えっと、その」
二度と会うことの叶わない魂の片割れの挙動を知りたがる謝必安に、エミリーは先程のことを伝えるかどうか悩んだが、よく分からないことを伝えても仕方ないと思い、范無咎が一言もこぼさず、あっという間平らげたことを告げた。
その回答に謝必安は破顔し、声を弾けさせる。
「そうですか。茶菓子は私が選んだんです。無咎は甘い物が少し苦手なんですが、あれは好きなんですよ」
「そうなの」
「ええ」
そういえば、と謝必安は腰かけていたベッドに置かれた布団を触りながら、その柔らかさが普段よりも一段とよいのに気づく。
「布団を干したんですか?」
「ええ、エマと一緒に。天気が良かったでしょう。後、ダニに刺されたみたいで。それもあるのよ。湿気ているとはいえ、背中なんて結構噛まれていたみたいで…ちょっとショックだわ」
「ダニに」
「そんなに不衛生にしていたつもりはなかったんだけれど。手が届かないところはエマに薬を塗ってもらったの。ああ、でも掃除もしたし布団も干したから、寝ても大丈夫よ。シーツも洗濯済み」
不安気な色が声に混じったので、エミリーはその不安を取り払うように、対策はすでに済ませたとばかりに頷いた。
しかし、謝必安はそこで一つ口を閉ざす。
「謝必安?」
じっと、じっと見ている。言葉もなく。
二つの瞳が魂を探るように見ていた。
エミリーは、見たこともない男の表情に唾を飲む。喉が、大きく動いた。
肌が、ひりつく。
謝必安は無言で傘を手に取って立ち上がった。その行動にエミリーは状況が飲み込めない。茶器は置いたままである。
「謝必安」
「用事を、思い出しました」
目はすでにこちらを見ていない。傘と共にその長身が雨粒に消える。
なんなのかしら、一体。
エミリーは空になった茶器を片付けることにした。
想定していた来客だった。
ジョゼフは、写真機を優しく拭く手を止めない。
「おい」
「やあ、君は…范無咎の方かな。来るなら、謝必安の方かと思っていたけれど」
どうぞとジョゼフが手を出した先の椅子に范無咎は乱暴に腰かける。傘がかたりと音を立てた。
「今度は捻挫ではすまなさそうだからな」
「割と君は冷静なことで」
写真機が床に立てられ、ジョゼフはその中を覗いた。レンズの先には范無咎が椅子に腰かけている。シャッターをきれば、その魂は写真世界に固定される。
しかしそれを押すことなく、ジョゼフは穏やかに范無咎に微笑みかける。
范無咎は機嫌が悪そうに鼻を鳴らし、人を食ったような笑みを浮かべているジョゼフを睨みつける。
「随分と餓鬼くさい悪戯をする」
「失敬だな。ちょっとした出来心さ」
「魂を固定する術を悪用するか」
「悪用?心外だ」
茶化すように続けられた言葉に、范無咎は眉間に深い皺を寄せる。
責めるようなその視線に、ジョゼフは肩をすくめて見せた。
「生憎、仕事柄そちらの方面には詳しい。真剣勝負をしてもいないのに、魂を弄ぶような真似はやめろ」
范無咎は牙を剥き出しに低く唸る。
医生の魂には、ジョゼフの臭いがこびりついていた。背と腕、それから脚に。
写真家の能力は、写真世界の魂に傷を付与することである。現実世界に戻った瞬間、その効果は半減されて反映される。
医生はダニに刺されたと言っていたが、范無咎はすぐに理解した。あれは、人に吸い付かれた痕である。
いたって静かに、しかし二度はないとばかりの警告にジョゼフは舌舐めずりをする。
「聞きたいなら、教えてあげてもいいけれど」
ジョゼフは椅子に腰かけて頬杖を突き、親指でゆっくりと、ゆっくりと自身の唇をなぞる。范無咎は返事の代わりに席を立ち、傘を持つと扉へと向かう。
いいのかい、と背中にかけられた声に、ノブにかけた手が動きを止める。
「お前の悪趣味に付き合う暇はない」
「君はそうでも、もう一人の彼は?どうだい、謝必安」
閉じられた傘に語りかけるようにジョゼフは囁いた。大きく、傘が震える。
「必安」
「白く柔らかい肌だった」
「やめろ」
「二の腕あたりの皮膚が薄いところは、軽く吸っただけでも痕が付いた」
「おい」
「走り回ったせいかな。うっすらと汗ばんでいて、しっとりと掌に吸い付くようだったよ」
「やめろ!」
ジョゼフは耳を掠めた傘の一撃に、目を細め、両方の口角を持ち上げる。
「やあ」
范無咎の制止を振り切って、謝必安は傘からその身を現す。
言わずもがな、傍にいるだけでも、肌に伝わる怒気であったが、ジョゼフは意に介することなく、いっそ挑発するように言葉を止めることをしない。
「どこから聞きたい?いや。どこまで、聞きたい?」
「ジョゼフ」
「最後までしたかどうか、とか。ああ、もしかして童貞かい?だとしたらこの話は刺激が強い」
「ジョゼフ」
すとん、とジョゼフの顔から表情が一瞬抜け落ちる。しかし、その顔には瞬時に愉悦を塗りこめ、楽しくて仕方がないと言わんばかりに歪められた。
赤い舌がちろりと弧を描いた口の隙間から覗く。
「悪辣の魂を相手にする君たちには、随分と分かりやすかったかなぁ。答え合わせの時間は必要?」
「わざとですか」
「わざと?まあ、そうだね。わざとかも。自分では見えない位置につけたのも、わざとだよね。ああその顔」
いいよ。
ジョゼフは立ち上がり、写真機を作動させる。一枚の写真が撮れた。
「すました君も、そんな顔ができるんだね」
撮れた写真を指先でぱらぱらと弄び、その端に唇を乗せる。その写真に傘が突き刺され、破けて落ちた。
折角撮ったのに、とジョゼフはひとりごち、写真機に体を預ける。
「綺麗だった」
「なにを」
「彼女さ。反応がないのは少し物足りなかったけれど、とても。零れた乳房は掌に程よく収まって、スカートで見えない腿に指が食い込む感触も楽しめたよ」
ひゅ、と謝必安は息を吸い込む。
「写真世界のカメラも動かせれば、君にも見せてあげられたのに」
胸倉が掴まれ、身長差故に、ジョゼフの足が宙に浮く。しかし、ジョゼフは楽しげな笑みを一向に崩さない。
謝必安と范無咎は正反対である。
常に仏頂面で寡黙な范無咎と、常に菩薩のように穏やかな笑みを浮かべている謝必安。謝必安は雨の日は不安定になるものの、その感情は一定で、微笑みが激昂に彩られたことなど、ジョゼフはとんと見たことがなかった。
今、この瞬間までは。
見開かれた瞳からは、魂をもぎ取ろうと手ぐすねを引いている荒々しい感情が揺らめいている。食いしばられた歯からは、軋んだ音が小さく響いていた。怒り心頭といった様子で、言葉も出ないようだった。
ジョゼフは挑発するように、片目を細め、舌を躍らせる。
「苦しいな。離してもらえる?それとも今度は首の骨でも折る?ああ、君が南台橋で首を吊った時のように、一瞬で折ってくれよ」
最後まで言い切った瞬間、体は乱暴に投げ飛ばされ、床に落ちる。ゆっくりと立ち上がると、服についた埃を払う。
顔を上げた時には、そこに立っていたのは、范無咎だった。無理矢理代わったのか、それとも謝必安が自ら引きこもったのかは、ジョゼフには判断が付かなかった。
范無咎は衣擦れの音すらさせずに、傘の先をジョゼフの鼻先へと向ける。
「お前の魂が落ちてきた時の水先案内人は俺がしてやる」
「それは、怖い。まあ、僕の魂はずっと写真世界にあるけれども」
「いつかは、来る」
「楽しみにしておくよ」
傘が大きく開き回転する。場を移動するのが分かり、ジョゼフは笑顔で手を振ってやった。
誰もいなくなった部屋で、ジョゼフは一人ゆっくりと深く椅子に腰かけ、満足げに冷めてしまった紅茶を口にした。
うえ、とエミリーは上にのしかかってきた重みに蛙が潰れた声を出す。
白く長い三つ編みがベッドの上でうねっていた。
「エミリー」
「戻ってきたの」
「はい」
もぞもぞと大きな体躯が蠢き、布団の中に潜り込んでくる。なれた光景にエミリーは諦めたように息を吐いて、ベッドの隅に身を寄せて一人分のスペースをあける。
普段であれば、そのまま寝るというのに、今日は腰に手が回り込み、背と腹が密着し、ぎゅうぎゅうとぬいぐるみのように抱きしめられる。
「謝必安」
「なにもしません。なにも」
項に息が吹き付けられるように呟かれ、くすぐったさに、エミリーは小さく身を捩るも、そのまま動かない謝必安に、言葉をかけることを止め、瞼を閉じた。
すん、と謝必安は僅かに香る魂にこびりついた臭いに顔を顰め、ぐりぐりとその無防備にさらされた項に顔を擦り付けた。