Go to the sea

 嫌な感じがする。
 ドフラミンゴは軍艦の上でぼんやりと凪いだ海を眺めながら、小さくなって、既にもう点のようにしか見えない島を眺めた。それも水平線の向こうへと消え去ろうとしている。なんだろうか、とドフラミンゴは思う。そして、唐突に側にいた海兵に言った。
「引き返せ。会議にゃ参加しねぇ」
「は?」
「聞こえなかったか?引き返せ。おれは今回欠席だ。気がそがれた」
 七武海の言葉に側にいた海兵は両眉を困った様に下げ、しかしと渋る。ドフラミンゴはその対応に痺れを即座に切らして、手を伸ばすとその男の主導権を奪った。びくりと男の体が一度震え、怯え慄きながら腰に帯びているサーベルに手がかかる。あ、と声が震えた。そのまま男はサーベルを抜き放ち、自害するかのように、その切っ先を自身の喉に添えた。
 ドフラミンゴは三度目になる言葉を繰り返した。
「引き返せ。おれぁ、帰る」
 籠の扉の鍵は、やはり閉めておいた方が良い。
 得体の知れぬ不安に心の端から侵食されながら、ドフラミンゴは分かりました!と悲鳴のように叫んだ男に自由を返してやる。船首がくるりと百八十度回転し、先程離れた島へと戻っていく。小さな点だった島が、大きな島の形を作っていく。
 何が不安だったのか、ドフラミンゴは思い考える。
 出かけた際の勝ち誇った様子。何かから気をそらすようなキス。初めて見せた怯え。
 おかしいと言えば、全てがおかしかった。何故放置して出てきてしまったのか、とぞくんと後悔する。足枷も鎖もそのままで、手は後ろで拘束具をつけている。心配ないと言えば心配がない。ベッドの作りは、女が持つ戦闘能力を考慮してその強度を調整してある。仮に窓を開けたままだとしても、武器が無ければあの部屋から出ることは叶わない。鎖を外されても、足枷の重さは人一人分以上はある。月歩を使うにしても、枷自体が邪魔となり、墜落は免れない。墜落すれば怪我をする。怪我をした状態で、自分から逃げることは可能か。答えは否である。大体、この島を出るにも船が無い。船の持ち主にはあらかじめ、あの女には絶対に船を渡すなと金を渡してある。怪我をし、枷を嵌められた状態で女が勝てるかどうかなど、分かり切った結果だ。
 不安に思うことなど何もない。何もない筈であるのに、この胸騒ぎは何であろうか。
 ドフラミンゴはようやく島に到着した船から飛び降りた。ドフラミンゴ様、という呼びかけは無視をする。走る。走る。籠の鳥が、逃げ出しているような気がする。
 怖い。
 一抹の不安を一刻も早く解消せんとすべく、ドフラミンゴは大きな足で地面を蹴った。途中で馬を奪い取り、地を翔ける。人?犬?轢いてしまえと乱暴に手綱を引く。舗装が不十分な道路を突っ走る。
 鳥籠の前で馬を止め、降りる。ふっと顔を上げる。高すぎる位置の部屋はここからは見えない。ただ、カーテンだけは内から外へとばたばたと靡いているようではあった。城の城門をくぐり、王宮へと駆け入る。部下がこちらの姿を見て、お帰りは明後日のはずではと野暮なことを訊くのを無視して、階段を駆け上がる。
 遅い。遅い。遅い。遅すぎる。時間が遅い。終わりの見えぬ階段の長さ。ドフラミンゴは苛立ちに口元を歪めた。
 逃がさないといくら口で言っても、あの女がどういう女か、ドフラミンゴは知っている。束縛と鳥籠を最も嫌う女である。そして何より、自分を嫌う女なのだ。悲しい程に。
 出る前に見せたあの笑みも態度も何もかもが、自分を不安に駆りたてる。鋼鉄の首輪で戒めておいた方が賢明であった。
 階段の終わりが見え、最上階への到着を知らせる。最後の一段を駆け上がるのですら遅く感じ、五段飛ばして階段を登った。人気のない廊下を走り、扉へと向かう。鍵鍵、と扉の前で焦る。ポケットを探り鍵を取り出す。それを開けるのにすら手間取る。大きな手が小さな鍵を取落す。くそ、と舌打ちをして大きな扉を呪う。鍵を拾い上げ、今度こそ差し込み、ドアノブを回した。
 そして、開いた。

 

 ドフラミンゴが部屋から出て行ってから三時間はゆうに経過した。不愉快な毒々しい色合いは瞼の裏に焼きつけられているけれども、ミトはその事実を時計を見て確認する。開け放たれた窓に向かってまだ口笛は吹かない。不用意にヤッカを下ろして周囲の目に触れ、騒がれるのは全く好ましくない。
 その前に、とミトは足を戒める忌々しい枷と鎖を見た。体を折り曲げ、鎖を噛んでみるが到底外れそうなものではない。枷は外さなくとも、ヤッカが逃亡を手伝ってくれるから問題はないのだが、鎖はこの馬鹿みたいに重たいベッドと繋がっているのでどう考えても邪魔になる。身動きが取れない。
 がちんと音を鳴らして引っ張ってみたが、やはり外れない。ヤッカがいない時に何度も、それこそ数えるのも飽きる程にこの鎖を引き千切る努力はしたのだ。だが、うんともすんとも言わない。純粋な脚力、腕力だけでいうならば、自分が男に劣ることをミトは良く知っていた。無論、そこらの男、海兵海賊含めてだが、彼らに負ける気はしない。とは言えども、体格差が伴い、それを完全に鍛えてこられれば敗北を期す。だからこそ武器を持つのだし、力に頼らない戦い方をする。刀、否、刃があるものであればどんな物でも構わないから、手元にあれば、とない物ねだりをする。
 しかし、我儘を言っている暇などない。ドフラミンゴが帰ってくるまでが勝負。この機会を逃せば、本当に、逃げ出せる機会は酷く伸びる。それまで、正直もう待ってなど居られない。籠に入れられるのは酷く苦痛で堪らない。鎖に繋がれることも、枷を嵌められることも、いい様に扱われることも、嫌で嫌で堪らない。いい加減に、気がふれてしまいそうになる。
 ミトはベッドから降り、その頑丈な足を見、それから自身の枷が嵌められたままの足を見た。一本くらいなら、と考える。一本くらいなら、やってもいい。軸足さえ残っていれば、ベランダまで片足で飛び跳ねていくことはできる。辛いが、痛みさえ堪えれば柵に乗ることも可能である。そこから先はヤッカに任せればいい。
 そこまで考え、ミトは鎖を繋いでいるベッドの足の脇に体を横にし、そこに足枷を添えた。通常の状態で蹴ったのであれば、壊れなかった。それは、ドフラミンゴが自分の能力の上限を測った上での強度にしてあるからである。足に渾身の力を込める。
「鉄塊、剛」
 足に最強の強度を持たせる。武装色の覇気を纏わせた上にさらに六式を重ねた。現時点でもち得る最上の硬度である。
 ぶん、とミトは鎖ごと足を後ろに反らした。この状態でぶつければ、ベッドの足は折れる。だがそれと同時に、足首の骨に一時的にお別れを言わなければならないだろう。それ程にドフラミンゴは用意周到な男である。
 うつぶせの状態で、手でベッドの脇を掴み体を瞬間的に固定すると、容赦ない速度で右の足枷をベッドの足に衝突させた。べぎん、と根元からベッドの足が折れる。折れた音は、ベッドの足だけではなく、自身の足首の骨も綺麗に折れたものだった。振り抜いた足はベッドの下へと回る。四本のうち、一本を失ったベッドは傾いて、床にめり込んだ。
 痛い。脂汗を額に浮かせ、ミトは体を丸めた。歯を食いしばり、痛みに体が慣れるまでしばし待つ。小さな呼吸を喉の奥で繰り返し、全身を痛みで強張らせる。
 痛みがようやく体になじみ、ミトはベッドの下に入っていた両足を引き抜く。鎖は付いていたが、既に足枷のみとなった体は自由に外に出られる。体を座らせ、一息ついてから流れている鎖を折れた足首から脚へと巻きつけ、テーピング代わりにする。不格好だが我儘を言っている暇はない。浮いた脂汗をベッドシーツで拭うと、ミトは飛ぶよりも這った方が楽だと言う事実に気付き、開け放たれたベランダまで腹這いで距離を詰める。
 ドフラミンゴが引き返してさえいなければ、今頃は海の上にある船。今から引き返したところでここに到着するには如何せん時間がかかる。痛みを訴える足に休みを付かせながら、ミトは確実にベランダまでの距離を詰めた。
 鎖は無くなっても、足枷は人一人分の重さはある。加えて、足首の負傷。速度は酷く遅いが、ミトはようやくベランダまでたどり着いた。柵に背中を預け、呼吸を整える。引きずったことにより、代わりに巻いたとはいえ、痛みは酷い。鏡があったならば、大層ひどい顔が映っていることだろうとミトは薄く笑った。背中に体重を掛けながら、体を立たせる。激痛が足に走るが、唇を噛み耐え切り、立つ。そして、深く深く息を吐いて覚悟を決める。立ち上がった時よりも倍の痛みが体を襲うのは承知の上である。
 足で、地面を蹴りつけた。体とそれから枷の分だけは体が浮かぶ程度の力を込めれば、体は一瞬無重力を味わった。ここの柵は通常に跳んだところで、越えられないくらいの高さになっている。憎らしいことこの上ない。もう一段階堪えて飛ばねばらなない。折れた右足に感覚などとうにない。左足一本でバランスを取り、再度大気を蹴った。ふっと柵が視界から消え、大きな街並みが広がる。膝を曲げ、足首にさらに痛みが伝わるが、緩衝材とバランスを保つためには仕方ない。両足で柵の上に立つ。そこでミトは高く口笛を鳴らした。
 だが、それと同時に扉が開く。早すぎる。目に痛い色が飛びこんだ。焦った表情がサングラスをつけていても分かった。ミトはドフラミンゴと対峙する。
 一方、部屋に入り込んだドフラミンゴはその部屋の惨状に呆然とした。
 へし折れて床に転がっているベッドの足を信じられない目付きで見る。おいおい、と口元が奇妙に歪められる。傾いたベッドはその自重で床に穴を空けている。そして、柵の上に立っている女を見て、ぞっとした。月歩を封じたその足では、そこから落ちれば死んでしまう。籠の鳥の風切羽はもう切ってしまった。
 手を伸ばそうとすると、鋭い声がそれを制止した。動くな、と。冷たい声と瞳。今日は、そのワインの瞳に酔えそうにない。
「こんな鎖で、閉じ込められているとでも思ったか?」
 静かな声が風に乗る。その声は緩やかに、ドフラミンゴの鼓膜を刺激し、震わせた。双眸は軽蔑を含めた色で男を見下ろす。
 ミトはヤッカがここに降りてくるまでの時間を計算した。ヤッカとて、いつまでも上空待機しているわけにもいかず、暇を持て余せば、どこかで羽を休めていることは間違いない。それでも、ヤッカは来る。合図は、彼の鳴き声。時間を稼ぐ必要があった。
 ミトは笑う。
「足枷と手枷で、お前は私から何が奪えた?自由でも奪ったつもりだったか?それとも、私を?」
「おい、オイオイ…待てよ。お前、ここが何階か分かってンのか」
 静かに動くなと態度で言い続けているミトに指一本動かせない状態でドフラミンゴは問うた。それに、女はゆっくりと頬笑みを返す。なんて馬鹿馬鹿しい質問だろうと言わんばかりに。着ている服が、風に飲まれる。
 分かっているとも、と凛とした声がドフラミンゴの耳に返された。女は少し視線をずらして、遥か下方にある地面を見る。それは、あまりにも遠い。
「この足枷では、月歩も連続しては使えない。まぁ、落ちたら即死だろうな。痛いと思う暇もなく死ぬことだろう。動くな」
 今度は言葉で持って女は男の動きを制止した。そして笑って脅す。
「その能力。どういった物かは詳しくは知らないが、それで私を操れたとして、この不安定な場所で無事に下ろせるとでも?今の私は足首も折れている。それも含めて、お前は自在に動かせるのか?私を。人間を操るのはさぞ楽しかろうが…何もかもがお前の指先一つで思い通りになるわけではあるまい。体の動きを縛ったその瞬間、一度力を込めて体が硬直すれば、それだけで私は地面に真っ逆さまだ」
 紡がれる言葉にドフラミンゴは動きを止める。背中に冷や汗が一筋落ちる。ようやく発した声は震えていた。
「てめぇ、死ぬつもりか」
 ミトはその問いに対する答えとも答えでないとも言える言葉を口にした。覚えておけ、と紡ぐ。
「私は、誰にも飼われない。誰にも、飼えない。飼われてやらん。得にお前なんぞ論外だ」
 見下ろす瞳は、ドフラミンゴのサングラス奥の瞳を一筋で射抜いた。
 突如、ドフラミンゴは全身の肌を震わせるような大音量の鳴き声に両耳を塞いだ。何だ、と考える思考すら押し潰すような猛々しい鳴き声、否、もはやそれは咆哮に近い。
 攻撃色の強いカヤアンバルの鳴き声は大気を震わせ、敵を慄かせる。痛い程に空気が鳴り反響する。この声に慣れていないドフラミンゴからすれば、両耳を塞がなければ鼓膜が破れそうだった。
 そんな男をに歯を見せて、ミトは笑った。声は耳を塞いでいるために聞き取れない。唇の動きで、ドフラミンゴは女の言葉を読む。
 じゃあな、ドンキホーテ・ドフラミンゴ。
 その唇の動きに、一瞬魅せられた。初めて、そんな顔をして自分の名前を呼んだ女に、ドフラミンゴは全ての時間を止めた。そして、女は嗤う。指先の間をすり抜けて落ちる。掬い上げた海水が、ほんの少しの隙間から、あっという間に落ちた。瞬間的に。それはもう、当然のように。海に帰ることこそが、その水の本能であるかのように。
 待て、とドフラミンゴは能力の使用すら忘れて手を伸ばした。喧しい鳴き声はもう止んでいる。女の左足が、柵を蹴る。その体が宙に放り出される。ばさりと服が風と落下による流れではためいた。柵にたどり着いた時には、女の体はとうに落ちていた。そして男はサングラスに映った女の笑みを見た。勝ち誇った表情が、はっきりと浮かんでいる。そのワインの目に映っている光景をドフラミンゴは見た。
 大きな影が、その色を暗くする。背中を圧迫するような強い衝撃を伴った風を背中に受ける。両膝に凄まじい重さがかかった。
 一瞬。
 ほんの一瞬、刹那の出来事である。
 そしてドフラミンゴは理解した。マジかよ、とそう唇は動き、小さな声を零すが、それは豪風によって弾き飛ばされた。
 影は刹那よりも短い時間で移動する。そして落下した女をその羽毛で覆われた背で受け止めると、攻撃すらも及ばぬ速さで視界から消えた。
 ドフラミンゴは呆然とカヤアンバルの最高速度を目にした驚きで口元を歪めた。そして、ペタンと尻餅をつく。残された風がカーテンを内に揺らしていた。呆然としたまま、両掌を広げ、そして見つめる。何一つ残っていなかった。なにも、残っていなかった。
 やられた。ドフラミンゴはそう思った。最後の最後に名前を呼ぶのは卑怯だろう。そんな事を言うべき相手は既にもういない。カヤアンバルの飛行速度についていける存在など、そうそう見つからない。既に彼女の猛禽類の姿は空の彼方に消え、米粒一つほども残っていない。
 空っぽの手でサングラスの上から目を覆う。視界が暗くなる。
 足枷で。手枷で。鎖で。檻のような鳥籠で。女の全てを繋ぎ閉じ込めたというのに。
 ドフラミンゴはミトの言葉を思い出す。飼われてやらん、と。汚して、手に入れたつもりだった。もう少しで完全に手に入ると思えた。だというのに、それだというのに。
 手に、入りゃしねぇ。
 所詮は、「つもり」だったと言うことなのか。
「あー…クソ」
 ごろん、と背中から床に倒れ込む。大きな桃色のコートに体が埋もれた。壊れたベッド。開け放たれた窓。そこに女はもう座っていない。憎まれ口と冷たい目をして座っていた女は、もういない。
 何故だか無性に悲しくなり、ドフラミンゴはフッフと笑った。一つ笑いだせば、それは止まらず、次から次へと口から零れ落ち、開け放たれた窓の外へと消える。むっくりと体を起こした。そして、憎たらしい程に晴れ渡った空を見つめる。逃げた鳥は、籠の中に自ら帰ってくることなどしない。元々飼われていた鳥ならばいざ知らず、あの鳥は、ケダモノなのだから。毎日檻の鍵を憎たらしそうに噛み、格子を蹴りつけ、隙あらば逃げようとしたケダモノ。
 自分は結局、猛獣の飼い方を間違ったのだろうかとドフラミンゴは笑いながら考える。瞼の裏にこびりついた女の笑みが忘れられない。自分の前で一瞬、最後の一瞬だけ見せた、自由を覚えた女の笑顔。
「チクショウ」
 ノックの音が喧しく空っぽの部屋に響く。
 呟いた声は、部屋が空だということを誇張しているようにすら聞こえ、全く。
 全く、面白くなかった。

 

 ヤッカの羽毛が視界を埋め尽くす。背中の少しくぼんだ場所は、外の大気の流れすらも遮断して主を守った。尤もそうでなければ、カヤアンバルのあの速度を真正面から受けて地面に落ちることは間違いがない。数時間も飛んだところで、ヤッカは次第に速度を落とした。すでに島など影も形も見えていない。
 ミトはヤッカの背中に体を預けたまま、浅い呼吸を繰り返した。足が痛む。体がだるさを訴える。骨折による発熱。少しばかり無理をし過ぎたのかもしれないなと痛感したが、籠の中に居ないということだけが、心を浮き立たせた。体の力を抜き、背中でずるずると上によじ登り、くぼみから半分ほど体を出して、柔らかな羽毛から開けた空を見上げた。青い。
 待っててくれ。
 そう言った事をミトは覚えている。お前と生きる海はどれほど綺麗で壮大で自由で美しいだろうか。その光景を想像し、小さく微笑む。熱は数日もすれば平熱にまで戻ることだろう。
 疲れた体で筋肉の躍動を感じながら、ミトは目を瞑った。痛みが響くが、少しばかり忘れたい。
「ヤッカ。少し…寝る」
 主の言葉にヤッカは一声鳴いて了承を示した。さらに速度を落とし、羽ばたくことを止め、紙飛行機のように風に乗るだけの飛行へと切り替える。震動は少なく、背を流れて行く風に体が冷やされた。
 ふざけるんじゃねェ、と怒ったクロコダイルの声をミトは思い出す。出会い頭は取敢えず殴られるだろうと覚悟はしておく。ただそれでも、その懐かしい顔を見ることが、たまらなく待ち遠しかった。それを思えば、足首の痛みも薄れて行く。
 頬を撫でて行く風がとても気持ちが良く、ミトは瞼を閉じたまま、久々に安堵を覚えた眠りを得た。